2005年1月11日

「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン(案)」に関する意見

     先物取引被害全国研究会
代表幹事  津 谷  裕 貴
事務局長  山 崎  省 吾

第1 総 論

1  当研究会は、先般の商品取引所法改正とこれに関する国会審議について、委託者保護、公正な受託業務確保を最重要と位置づける当研究会として一定の評価をするものであり、その後の政令、省令改正、ガイドライン制定によって、これらの法制度が一層充実し、発展していくことを期待していた。
   しかしながら、先般の政令改正では、我々の関心のある委託者保護のうち、説明義務に関する政令事項について具体的規定を制定することすら見送るなど、委託者保護に関する必要な事項を具体的に提言した当研究会及び日弁連の意見は取り入れられておらず、遺憾と言わなければならない。
   そして、今回の省令改正案でも、委託者保護に関する部分については、他の規定と比べて、規定の数も、内容も極めて貧弱なもので、特に目新しいものはないだけでなく、これまで長年主張し続けてきた先物被害予防、救済のために必要不可欠な規定すら盛り込まれていない、極めて不十分なものである。
2  当研究会は、法改正後の政令改正、省令改正案を見て、政府の基本姿勢が今回の改正商品取引所法成立後変容し、かつての、平成10年法改正後平成15年当時までの状況に逆戻りしてしまったのではないかといった強い懸念を抱いている。すなわち、平成10年法改正後、当時委託者保護で先物訴訟などで重要な役割を果たしていたチェックシステム、MMT(ミニマムモニタリング)を廃止し、また、業界に対して同限月同一枚数だけの両建だけが違法であるかのような誤った説明をしミスリードしたり、さらには紛議多発しているアイコムの許可更新とその後の同社支援に対する不適切な対応など、先物行政は委託者保護に関しては後退を繰り返し機能不全に陥り、その結果、先物被害を急増させた。もはや主務省の下では先物被害は減少せず、我が国で健全な先物制度が根付くことはあり得ないといった悲観的状況にあった。しかし、昨年春、産構審商品取引所分科会にはじめて委託者側に立つ弁護士を委員に委嘱し、委託者保護を充実しようといった姿勢を示し、実際、今回の法改正直後までは、先物被害の実態を認識し、先物判決の内容を検討し、これを今後の先物行政に反映させようという政府の姿勢が見受けられた。それが改正法及び衆参附帯決議にもその姿勢は受け継がれていたように見えた。
   しかし、改正法成立後は前記の通り、元の木阿弥、不当な先物行政当時に逆戻りするのではないかいった懸念、危機的状況にある。
3  今回の省令改正案は、先物被害の実態に蓋をし、被害予防、救済に必要不可欠な規定はほとんど盛り込まれていない。これまで長年にわたって我々先物被害救済に取り組む全国の弁護士が苦労して築き上げてきた先物被害救済判決の集積を無視するに等しいものであって、改正商品取引所法の趣旨、国会での衆参附帯決議、その間政府が行ってきた国会答弁にも反するものである。
   このうち、衆参両院の附帯決議が次のようになっていたを想起すべきである。
 (1)個人委託者の保護のため、商品取引員の勧誘方法に関し、適合性原則の徹底を始め関係法令を遵守するよう厳格に指導すること。特に、新規委託者の保護には万全を期すこと。
 (2)両建て勧誘、特定売買、向玉については悪用されることのないよう厳正に対処すること。
 (3)商品取引員の受託業務の実態を毎年調査し、公表するよう努めるこ  と。
 (4)監督体制については、農林水産省及び経済産業省が十分緊密な連携を図り、委託者保護に万全を期すとともに、米国の商品先物取引委員会(CFTC)なども参考にして、今後の監督体制の強化について検討すること。
 (5)交付する書面については、個人委託者にとってわかりやすい内容のものとするよう努めること。
   附帯決議では、これら委託者保護に関する事項は「厳格に指導」「万全を期すこと」「厳正に対処すること」となっているのであり、今後制定予定のガイドラインだけに規定すればいいというものではなく、省令にも規定し「万全」を期すことが期待されていたのである。
4 省令案は、附帯決議で指摘されている事項のほとんどが取り入れられていないのであって、これを誠実に遵守していない、委託者保護を放棄したものと言わざるを得ない。
   監督官庁として、誠実に、先物制度改革、委託者保護を前進させる意思があるのであれば、附帯決議で指摘されている米国のCFTC(商品先物取引委員会)などを参考にして、早急に次の事項を、省令に盛り込むべきである。
   以下、省令案にそって、具体的に意見を述べる。ここでは結論だけを述  べ、理由は必要最小限にとどめる。理由の詳細は、当研究会の基本的主張  平成15年12月1日付「先物取引被害全国研究会 商品先物取引制度改  革意見書」に記載しているので、参照されたい。


第2 各 論

1 省令案103条(禁止行為)について
  いわゆる先物取引における「客殺し」手法をここに規定すべきである。
 前記の通り、衆参両院附帯決議でも指摘されている次の事項は不可欠である。

(1)不招請勧誘
   事前の要請がないのに、電話、訪問、FAX、メールなどで、先物取引の  勧誘を行ってはならない。
 (理由)先物被害の大きな原因が、電話、訪問勧誘による。電話、訪問勧誘を禁止しない限り先物被害の減少はない。今回の法改正では直接これを規定してはいないが、省令で禁止しても法律違反になるわけではない。金融先物取引法が改正され、同法では、不招請勧誘が禁止され、商品先物取引分野は遅れをとってしまった。

(2)受託契約締結後14日間を経過しない間の受託行為(熟慮期間)。
  (理由)既に、海外先物規制法には規定があるが、これは国内商品先物取      引でも必要である。

(3)新規委託者保護措置違反
  (理由)附帯決議でも指摘されているところである。
      多数の判例も認めている。

(4)当初投入予定金額を上回る取引の受託。
  (理由)附帯決議の趣旨。

(5)借金をして先物取引を行っている者からの受託。
  (理由)附帯決議の趣旨。

(6)異限月両建、枚数違いの両建等法214条第8号を潜脱する両建勧誘。
  (理由)省令で指定すべき最も重要な事項の一つ。附帯決議でもあえて指摘していることである。

(7)無敷、薄敷
   (理由)不当勧誘、適合性原則違反等と関連する。

(8)特定売買(ころがし、無意味な反復売買)
   (理由)附帯決議で指摘されている重要事項。多数の判決がある。

(9)不当な念書の強要
   (理由)判決では違法行為の最後の仕上げと認定されている。

2 省令案104条(事前書面記載事項)について
  事前書面には、次の事項を記載すべきことを追加すべきである。
  これらは、委託者保護、附帯決議の趣旨からも必要である。

(1)業界全体の商品先物取引に参加する者の損益の割合、及び過去5年間における当該商品取引員における一般委託者の最終的な損益結果の割合。

(2)商品先物取引の委託手数料が、高額であって、取引を繰り返すと取引の  利益より委託手数料の額が上回り、委託手数料だけで損となるおそれがあ  ること。
(3)商品取引員自身も取引を行っており、顧客と反対の取引を行い、利益が  相反する場合があること(向玉)。

(4)相場の予測がはずれた場合の対処の仕方として、一旦仕切って出直すこ  とが最も望ましいとされていること。両建は、泥沼に引きずり込む常套手  段といわれる極めて危険な方法であること。

(5)当該商品取引員がこれまで受けた行政処分、5年間の紛議件数、現在継  続している訴訟件数及び内容。

(6)担当する登録外務員の住所、氏名、連絡先(104条第15項関係)

(7)苦情の問い合わせ先として、日本商品先物取引協会のほかに、国民生活  センター、各地の弁護士会及び先物取引被害全国研究会を挙げるべきであ  る。

3 省令案115条(営業報告書の作成)、116条(業務報告書等)について

(1)営業報告書、業務報告書には、毎年、一般委託者数の他に、取引終了結  果の損得の数、割合等を報告事項に加えるべきである。
(2)116条3号は、できるだけ具体的、詳細な内容にすべきである。
(3)省令案117条(合併認可申請)13号(5年以内の不祥事職員の氏名  等)に関する事項をこれらにも含めるべきである。


4 省令案123条(業務停止命令の事由) 
  次の事由を加えるべきである。
(1)当該商品取引員による先物取引が原因となった刑事事件が発覚した場合
(2)当該商品取引員による先物取引が原因となって公金横領、不正資金流用などが発生した場合
(3)委託者からの苦情、紛議、訴訟が多発している場合