2003年12月 日

先物取引被害全国研究会
先物制度改革意見書

       先物取引被害全国研究会
              代表幹事 弁護士 津 谷 裕 貴  同
              事務局長 弁護士 山 崎 省 吾

第1 はじめに

 平成2年及び平成10年の商品取引所法改正にもかかわらず、先物取引被害は減少してない、それどころか増加傾向にある。被害の内容、手口は相変わらず客殺しとよばれる手法(無差別電話勧誘・断定的判断の提供等による不当勧誘、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、無敷・薄敷、両建、転がし、仕切拒否・回避等)が現在も行われている。当研究会が、全国単位弁護士会に呼びかけて行った先物取引110番の結果、国民生活センターのデータなどによっても、それらが裏付けられる。
 少なくとも、平成2年商品取引所法改正以降、これまでの法改正は先物取引被害、トラブル減少、防止という面では、単に効果がなかったというに止まらず、被害を増大させたという点でむしろ改悪であり、先物行政は、後記の通り失敗であったと言わなければならない。政府が行ってきた先物取引に関する規制緩和は、猛獣を折から放つに等しく、その結果は、先物被害、トラブルを増加させただけであった。
 最近公表された取引員の処分の内容を見ると、なんと言っても先物大手の東京ゼネラルに対する処分が注目され、同社の度重なる処分は、分離保管に端を発し、以前にも分離保管違反で処分されている商品取引員は数社あることから、商品取引員に分離保管は不可能であり、一般大衆を不当な勧誘で先物取引に引きずり込み、転がし、仕切拒否などの前記客殺しは、客の金は自分のもの、金を出させたら全額損させるまでは離さないという構図が浮かび上がってくる。そのほかにも不正資金の流入を原因として処分を受けた商品取引員も数社あり、犯罪で取得した金が先物取引に流入していることも明らかになっている。こうしたことが、昭和60年以降現在まで続いている日本の商品先物取引は、異常と言わなければならない。我が国の商品先物取引は、制度改革全般について見直す時期に来ていると言わなければならない。
 現在、政府は、産構審商品取引所分科会において、先物取引制度改革を検討し、中間報告、パプコメを募集し、それらの結果を踏まえ来年春には商品取引所法改正を行うとしている。
 しかしながら、制度改革とはいうものの、先物被害、客殺しの実態を十分認識したものとはいえず、先物制度改革とはいうものの一部の制度の見直しに過ぎず、その名に値するかが疑問である。
 21世紀を迎えた今、我が国の先物取引に必要なことは、世界に信頼される公正な先物取引制度を確立することであり、とりわけ一般委託者の被害防止、救済を中心に公正な受託業務を確立することであり、これまで行ってきた先物行政を含め、先物取引制度全般を根本的に見直すことである。
 このような問題意識から、当研究会は、日頃先物取引被害救済の実務に携わっている経験と、これに加え先般行われた日弁連米国先物調査団に参加し米国先物の実情を調査した結果を踏まえ、意見書を提出する。



第2 意見書の趣旨・理由

 現在の先物取引に関する法規制、自主規制は委託者保護、公正な受託業務の確立という点では不十分なものであったが、先物業者はそれすら遵守せず、深刻な先物取引被害を引き起こしてきた。
 平成10年法改正は、事前規制から事後チェックへ行政転換するとして行われたものであるが、これまで法規制すら遵守しない先物業者に自主規制を期待することは不可能なことを強いることであり、これは行政の監督権限放棄に等しい。
 先物被害防止、公正な受託業務を確立するために、次の制度改革が必要であり、そのための法整備等を早急に行うことを求める。

1 基本的視点(一般委託者は先物取引に不可欠ではないこと)
先物取引は、極めて投機性が高く危険な取引であって、一般委託者(大衆投資家、個人投資家)には不向きな取引である。欧米では一般委託者が先物取引を行うことはほとんどまれであって、我が国でも、証券先物、金融先物は、一般投資家による先物取引参加はないに等しい。
先物取引は、一般委託者の参加が不可欠というような取引ではないことがわかる。
これに対して、我が国の商品先物だけは、一般大衆の参加が9割以上と言われており、継続的にトラブルが多発し、トラブルの大半は、広告と電話、訪問勧誘等に端を発し、トラブルの内容は、前記客殺しと呼ばれる手法によるものであって、一般大衆が客殺しの食い物にされ、これが長期間にわたって続いており、しかもこうした商品取引員の業務姿勢、モラルは改善される兆しがほとんどないというのが、現在の日本の商品先物取引の実態である。
よって、商品先物取引の制度改革を検討するにあたっての基本的視点として、一般委託者の参加は必要不可欠なものではないことを認識すべきであって、近い将来、その方向に向かうべきであって、当面一般委託者が商品取引を行う場合は、少なくとも、一般委託者が不測の損害を被らないよう配慮し、そのための制度を整えるべきである。



2 先物取引ルールに関する改革

(1)先物取引の広告及び勧誘禁止
先物取引は、極めて投機性が高く危険な取引であって、一般大衆(一般委託者)には不向きな取引である。先物取引のトラブルの大半は、広告、又は電話、訪問勧誘等によるものである。
よって、先物取引については、広告及び、電話、フアックス、訪問、Eメールなどによる一般大衆に対する勧誘を禁止すること。

(2)適合性原則の徹底
 先物取引の目的が、公正な価格形成とヘッジであるとすれば、これらは先物適格者が市場参加者であることを前提としている。先物取引が極めて投機性及び危険性の高い取引であるとすれば、先物取引の適格者はいわゆる機関投資家を中心に考えるべきである。
 先物取引適格者というためには、知識・情報、経験、十分な資金が必要であるが、一般委託者は、原則としてこれらが十分ではないから先物取引不適格者である。
 例外的にこれらが備わっている個人投資家も皆無というわけではないであろうが、そうした先物取引における適合性の基準又は不適格者の基準を法律で規定すべきである。法律で規定する場合には、適合性原則と、不適格者の例を具体的に掲げ、不適格者に対する勧誘を禁止することを明示すべきである。
 上記(1)の通り、一般委託者に対する先物取引の広告及び勧誘は禁止すべきであるが、自ら進んで積極的に先物取引を行っている一般委託者が、先物取引を行うに必要な資金(余裕資金の3分の1)を超えて先物取引を継続することはその時点で先物取引不適格者というべきであるから、それ以降の受託を禁止すべきである。
 これらを実現するための方策として、例えば、委託証拠金の額を1000万円以上とし、さらにそれとは別個に一定金額を予め預託させるなどの制度に変更し、これらの資金力が無い限り、先物取引の参入は認めるべきでないといった制度を検討すべきである。

(3)説明義務の法定化
 先物取引の仕組み、危険性、相場が逆になった場合の対処法等について、事実を、委託者が理解できるよう説明する義務を法律上明記すること。
 説明義務に関して、現在商品取引所法施行規則46条9号、日本商品先物取引協会の受託等業務規則にある程度の規定はあるが、法律上明記されていない。説明義務については、その重要性から法律で規定すべき事項である。
 また、内容については、現在行われている事項以外にも、一般委託者の最終取引結果(損得の割合等)、自己玉の明示、訴訟、紛議件数、行政処分、取引所、自主規制機関からの処分等も開示、説明すべきである。
 説明の程度として、委託者の知識、理解度に応じ、委託者が十分理解できるようわかりやすく、易しく説明すべきである。

(4)習熟期間(熟慮期間)の創設
 先物取引は、冷静な判断が必要とされる。委託契約締結から、最低14日間を経過しないと先物取引を行えないようにし、それに反する受託は、委託者の計算に帰すことができないという制度(海先法8条)を国内公設の先物取引においても創設すべきである。

(5)新規委託者保護措置
 新規委託者に対しては、最低3ヶ月間、建玉枚数20枚を越える受託を禁止すべきである(建玉枚数制限)。
 平成10年法改正のさいに、従前行われていた新規委託者に対する建玉枚数制限(新規委託者には3ヶ月間、20枚を越える建玉をさせてはならないという内容)が、新規委託者保護の内容については業者の判断に任されこととなり事実上撤廃された。それ以前から遵守されなかったこの制度は、撤廃された結果、新規委託者に対して最初から20枚を越える建玉をさせるなどし、いわば無法状態となっている。
 新規委託者保護措置のなかで、従前の建玉枚数制限は必要な措置で、撤廃してはならず、むしろ自主規制から、法規制へと格上げすべき事項である。



(6)両建の禁止 
 両建(異限月、枚数違いの両建を含む)の勧誘は全面禁止すべきであり、勧誘による両建でない場合であっても、両建の受託は禁止すべきである。
 両建は、公正な価格形成という先物取引の制度目的からは無為意味であり、業者にとってはこれによって委託者を泥沼に引きずり込む常套手段とされてきたものである(国民生活センター編 「海外先物取引」ブックレットNO1)。
 委託者勝訴の民事判決でもこれを認定する判決が数多く出されている。
 しかるに、現在両建については、商品取引所法施行規則46条11号で、同一限月かつ同一枚数の両建勧誘のみを禁止している。この規定を形式的に解釈すると異限月、枚数違いの両建は禁止されていないことになり、実際、主務省担当者はその旨業者に説明し、業者にお墨付きを与えた。その結果、異限月又は枚数違いの両建が数多く行われている。例えば、10月限30枚の買玉に、10月限9枚の売玉を勧誘すること、同じく、11月限10枚の売玉も限月が異なるから許される、少なくとも禁止されていないという。
 これは両建勧誘禁止規制の脱法以外の何者でない。前者の例では、少なくとも9枚については、両建であることに変わりはなく、また、限月違いについても、限月が異なるからといってさほど価格に違いはないのであるから両建の弊害は同じである。
 両建は、それが勧誘によるものであるか否かに問わず、また異限月、枚数違いであっても無意味、危険、欺瞞的取引であることに変わりはない。両建は泥沼に引きずり込む常套手段という国民生活センターの前記警告を真摯に受け止めるべきであって、違法な取引として禁止すべきである。

(7)特定売買の禁止
 直し、途転、日計り、両建、手数料不抜けのいわゆる特定売買は、業者の手数料稼ぎのために委託者を食い物にする取引であって、誠実公正義務違反といわなければならない。
 これらは、主務省では従前チェックシステム、MMT(ミニマムモニタリング)として業務監督の一環として実施されていたものであり、先物取引の民事訴訟の場では、これら特定売買の比率、手数料化率などが違法性の判断基準になっていたものである。
 しかるに、主務省は、平成11年4月1日これらを廃止した。その結果、業者は、裁判内外で、これらの行為を行っても違法では無いなどと開き直っている。
 特定売買のうち、両建については違法であり禁止すべきことは上記の通りであるが、それ以外の取引についても、背任行為、少なくとも誠実公正義務違反の行為というべきであるから、これらを改めて禁止すべきである。

(8)向玉(差玉向)の禁止
 向玉は、法律上禁止すべきである。
 向玉は、伝統的に客殺しの手法の一つといわれており、現在も向玉を行っていると思われる業者は少なくない。向玉には、委託者の建玉(例えば買玉30枚、売玉20枚あるとする)全量向(買玉30枚に対して売玉30枚、売玉20枚に対して買玉20枚)と差玉向(買玉10枚がおおいので、それに対して売玉10枚を建てること)があり、また、向玉をする相手は業者自身の場合と顧客の場合がある。
 向玉による客殺しが可能であることは、刑事事件ではマルキ商事判決で大阪高裁昭和61年12月19日判決、同和商品判決で大阪高裁昭和63年2月9日、最高裁平成4年2月18日判決が明言しているとことである。民事訴訟でも、平成14年2月25日の神戸地裁姫路支部判決は、向玉による客殺しか可能であることを明確に認めている。

(9)実効性あるルールと訴訟で違法性が認定されたらそれと連動   する処分制度の確立
  実効性あるルールを確立し、ルール違反には厳しい制裁を行うべきである。これが、先物被害を防止し、我が国の先物取引の信用性を高めることになる。
 そのためには、民事的には、違法行為に基づく取引は無効(委託者の計算に帰すことができない)、又は損害賠償の対象になることを明記すべきである。
 また、民事訴訟で違法行為が認定された場合は、それに連動して、業務停止などの行政処分、取引所処分、日本商品先物取引協会の処分などが行われる制度を確立すべきである。
















2 取引所改革(板寄せを廃止し完全ザラバへ)

(1)取引所での取引は完全ザラバにし、全ての取引が場に晒され、   バイカイ付け出しは禁止すること
 我が国の取引所の大半は板寄せと呼ばれる売買手法で、そこでは、取引終了後も20分以内であれば取引の場に晒されていない取引であってもバイカイ付け出しによって取引が認められている。板寄せとバイカイ付け出しは不可分な関係にあるとされる。
 向玉は、全量であれ差玉向であれ全面禁止すべきであるが、バイカイ付け出しが認められている制度では、容易にこれが可能となる。
  取引所における取引で、場に晒されていない取引が存在するということ自体、取引の信頼性を著しく低下させる。しかも、板寄せ手法がとられる我が国の取引所では、バイカイ付け出しによって成立する取引が大半となっている。
 先物取引は、信頼性が命である。板寄せ、バイカイ付け出しが認められている我が国の先物取引は向玉の温床となり取引の公正さに疑わせるものであり、また、諸外国と比べ特異な存在であって、これを存続させることは平成10年法改正の目的である「国際水準の商品先物市場の整備」に反すると言わなければならない。
 よって、取引所における取引は板寄せから全てザラバに移行すべきである。
 さらに、ザラバを採用する東京工業品取引所においても、ゴムは、板寄せであり、またザラバが採用されている他の取引でも、最初と最後の取引は場に晒されていない「板あわせ」による単一約定であり、完全なザラバとは言い難い。
 全ての取引が、場に晒されるよう、完全ザラバを導入すべきである。

(2)取引所の監視機能、チェック機能を強化すること
 先物取引被害が減少しないのは、取引所が、取引の公正、会員の受託業務の監査等について、機能を発揮していないことにも原因がある。
 例えば、特定売買の割合などは、会員である商品取引員から聴取することによって容易に把握でき是正させることによって被害を未然に防止できる。また公金取扱者が横領、背任をしたという先物取引をめぐる刑事事件が後を絶たないが、一般委託者が先物取引に投入できる資金、取引枚数はその人の収入や資産などから限られているが、それに見合わない不自然な取引を行っている場合、会員から事情を聴取するか、必要に応じ委託者に直接問い合わせるなど不正な資金等が投入されていないかチェックし事前に防止する必要があり、それが可能である。しかし、これまでそうした例は聞かない。
 公正な取引、適正な受託業務が行われるよう会員及び取引を厳しくチェック、監督できるよう、取引所監視委員会などの権限及び機能を強化すべきである。
(3)取引量が少ない取引所は統廃合すべきである
 取引所のなかには、取引が閑散としているもの、少数の大口取引者の参入でストップ高、ストップ安などになって取引ができないものなどがあり、このような取引所で取引を余儀なくされる委託者は大きな損害を被っている。
 このような取引所は、取引所の名に値しないから、閉鎖又は統廃合すべきである。
3 先物行政改革

(1)事前規制から事後チェック行政の前に、最低限のルールを確   立すること
 平成10年法改正のさいに、事前規制から事後チェック行政への転換ということが強調された。その結果、委託者保護のために必要不可欠な規制も見送られ、自主規制に委ねられてしまった。
 これまで、先物取引業界は、法規制、行政規制すら遵守できずに先物取引被害を引き起こしてきた業界であり、法改正のさいに指摘されていたとおり、「我が国の商品先物取引業は銀行、証券業等と比較して社会的信用が必ずしも高くないという指摘あり、その健全な発展が重要な課題となっている」(委託者保護に関する研究会中間とりまとめ)。
 平成10年当時は、証券取引をめぐって、ワラント、飛ばし、損失補填などの被害が引き起こされていた時代であり、また、銀行取引についても、不良貸付等のトラブルなどが発生しこれまでの信頼が揺らいでいたときに、先物は、それよりも信頼性がないと言われていたのである。
 信頼性が高くないものに、法規制をはずし、自主規制をさせるということは、猛獣を檻から放つことに等しく、理解しがたいことと言わなければならない。
 事前規制から事後チェック行政へ転換が打ち出され、委託者保護関連では、チェックシステム等の廃止、山文産業の許可更新とアイコムの破産等は、そうした流れのなかで引き起こされた。今日の先物被害を発生させた責任は、こうした無責任な行政の姿勢にあると言わなければならない。
 少なくとも、先物取引には、委託者保護のための必要最低限の法規制は必要であり、今からでも、上記1(先物取引法規制)に指摘した事項は、法規制すべきである。
 
(2)3元行政を改め、例えば日本版CFTCを設置すること
 我が国の先物取引は、商品先物取引だけでも、農水省と経産省に別れ、さらに証券先物取引、金融先物は金融庁と、同じ先物であっても監督官庁が別れている。
 これに比べ、米国では、これら先物取引については全てCFTC(商品先物取引委員会)が監督し、厳しい規制を行っている。
 先物取引被害の防止という観点から見ると、農水省、経産省による先物行政は破綻していると言わなければならない。
 これまでの先物行政をふり返ってみると、政府の先物取引政策の大きな問題点は、昭和55年の商品取引所法8条の誤った解釈変更に端を発する。これによって被害が発生してから政令指定するという後追い行政が目につくようになった。
 法改正の問題として、国際化の推進(平成2年6月法改正)、利便性(平成10年4月法改正)を掲げた商品取引所法改正は、業界育成を優先し、委託者保護は劣後であった。例えば、平成2年法改正の前に、これまで先物訴訟では違法性の根拠としてきた旧取引所指示事項を改正し内容を抽象化してしまった(平成元年11月27日)。これによって、例えば、異限月両建は、改正前は明文で禁止されていたが、改正後は禁止されていないといったような主張を業者は堂々とするようになった。また、最近の先物訴訟では、言った言わないの訴訟から、行われた取引自体に違法性(転がし、手数料稼ぎ等)がなかったか、その基準をチェックシステムやMMT(両建、日計りなどの特定売買の比率や、手数料比率の割合を判断する)に求める判決が主流になっていたところ、政府は平成11年に4月にこれを廃止してしまった。これによって業者は、特定売買比率を検討しても、今はチェックシステムは廃止され、特定売買は違法ではないなどと開き直っている。これらは、規制緩和、事前規制から事後チェック行政への転換とのことであるが、先物に関する法規制を守れなかった業者に、規制緩和するというのはどういうことか、理解しがたいところであった。
 さらに、平成13年の許可更新のさいには、各地でトラブルを多発するなどし許可更新すべきでない業者にも許可更新し、被害を助長させるお墨付きを与えた。このときの許可更新について酒巻日商協元会長は、「将来に向かって禍根を残す、行政の責任は免れない」と指摘したとされ、実際、間もなくして、アイコム(株)が破産した。
 このときの許可更新に当たっては、主務省が業界にアイコムの支援を要請し、これを受けた業界は、支援の仕方として、アイコムに先物取引を受託する方法によって行われたと報じられ、アイコムが行った取引所は、客殺しの温床と批判のある、バイカイ付け出しが行われている板寄せ手法の東京穀物取引所であった。不可解、不透明な行為と言わなければならない。
 また、行政処分について言えば、これまで民事訴訟で受託業務に関する法令違反、違法性が認定されても、それによって行政処分が連動して発動されるということは無かった。業者は、法令違反をしても氷山の一角の、過失相殺された損害賠償を支払うだけで、業務停止などの強制処分を受けないので、結果的には法令違反のやり得を許していた。
 先物被害は、平成2年、平成10年の2度の法改正にもかかわらず、減少しなかったし、相変わらず被害内容、被害の手口は変わっていない。
 委託者保護、先物被害救済という点では、平成2年に法目的に委託者保護の文言が加わったものの、具体的中身について、平成10年法改正で業者の誠実公正義務が明文化されるなどの若干の前進があるものの、これらはいわば総論的、お題目的な規程であって直接被害救済に役立つものではなく、これといった前進はなかった。
 それに比べ取引所指示事項の変更、チェックシステム等の廃止によるマイナスは大きく、むしろこの14年間、委託者保護は、後退したと言わなければならない。
 アイコム(株)の例が象徴的であるが、業者を保護育成しようと無理に許可更新したものの同社は破産したが、まさに破綻したのは農水省、経産省による先物行政そのものであったと言わなければならない。
 先物取引が資本主義社会において証券取引と並ぶ必要不可欠な重要な制度であるとすれば、それにふさわしい規制機関を設置すべきである。
 そうした観点から、先物取引ついては、先物先進国米国をならい、先物取引に関する強大な権限を持つ日本版CFTC(商品先物取引委員会)を設置し、そこに先物取引に関する権限を集中させ、委託者保護、公正な先物取引を実現していくべきである。
 いずれ、農水省、経産省による2元行政は終わりを告げる時期にきていると言わなければならない。

4 自主規制機関改革
(1)自主規制機関の組織、権限強化
 日本商品先物取引協会(日商協)は、商品取引員を会員とする自主規制機関であり、受託業務の公正、円滑化と委託者保護を目的としている。
 米国のNFA(National Futures Associations 全国先物業協会)を見ると、先物取引における自主規制機関の重要性、役割を理解できるが、我が国の自主規制機関である日本商品先物取引協会は、委託者保護目的をどれだけ達成しているか疑問なしとしない。
 すなわち、先物取引被害は、商品取引員が法令諸規定、自主規制規則を遵守しないことから引き起こされている。日本商品先物取引協会は、商品取引員に対して、法令、自主規制規則を遵守させ、違反には制裁を課すことになっているが(定款5条)、我が国では、民事訴訟で受託業務の違法性が認定されても、監督庁も、取引所も、処分は行っておらず、同様に日本商品先物取引協会もそうであった。
 日商協の会員は、商品取引員であるものの強制加入にはなっていない(定款6条)、会員の会費によって経営はまかなわれている(8条)。
 先物取引における自主規制及びそれを遵守することは先物被害防止の不可欠な要素であり、また先物取引の信頼性を担保するものであるから、その担い手である日本商品先物取引協会の責務は重要である。
 そこで、受託業務の会員は、商品取引員だけでなく、取引所、外務員等も含め受託業務を行うもの又はそれに従事する者は全て日本商品先物取引協会に強制加入させ、会員資格がない者が受託業務を行えば刑事罰を課し、自主規制機関違反に対して厳しい態度で臨めるよう、日商協の権限を強化すべきである。

(2)紛争解決機能の充実
日商協が行う苦情解決、あっせん及び調停は、委託者保護の観点から充実させ、その結果は、プライバシーに配慮しつつできるだけ公表すべきである。
 委託者と業者との紛争解決の手段として、当事者間で解決できない場合、民事訴訟と日商協のあっせん及び調停手続きがある。どちらが委託者保護に資するかは評価の分かれるところであるが、日商協の手続きは、委託者保護の立場にたって、裁判手続きによらずに簡易、迅速な解決が期待されている。
 しかるに、調停を申し立てても時間がかかり、また、調停の結果は公開されていないので、妥当な解決が行われているかチェックすることができないのが現状である。
 米国ではNFAの仲裁手続(arbitration)、調停(mediation)が充実し、その内容の一部はインターネットなどで知ることができる。











5 商品取引員改革
(1)厳しい監視と、法令自主規制違反に対する厳しい制裁が不可   欠である
 先物取引被害は、商品取引員の法令、自主規制違反等による受託業務によって引き起こされ、これらは客殺しと呼ばれる手法によって行われてきた。客殺し手法は、昭和30年代から40年代にはじまり、現在も行われているものであって、商品取引員及び関係者のモラル、社会的信頼の低さはつとに指摘され、
その都度信頼性の向上を掲げるものの実現したためしはない。
 先物取引は、一般委託者が、多額の資金を、信頼性の低い、商品取引員に多額の金員を預託するところからはじまるのであるが、被害はここから始まっているわけである。一般委託者にとって先物取引を終了できるのは、預託した金員がすべて手数料と取引損に消え、わずかな清算金しか残らなくなった段階というのが大半であって、現在もそれは変わっていない。
 先物取引被害を防止し、公正な受託業務を実現するためには、商品取引員の自主規制に期待することはできないというのがこれまでの教訓である。
 法令、自主規制を遵守させるためには、厳しい監視と違反に対する毅然とした処分を行うことが必要である。

(2)委託者債権の保全のために、完全分離保管と預託証拠金等は   委託者名義で取引所に預託すること
 商品取引員の倒産等による委託者債権の保全制度については、現行制度は複雑であるので、これをできるだけ単純化し、委託者債権の優先権を確保するための簡易、迅速な制度を確立すべきである。
 商品取引員は、委託者が預託した証拠金等は、委託者の先物取引のために預託しているものであって、商品取引員が預託金を使用することを許容する意思はないから、商品取引員が預託金の全部又は一部を費消することは横領又は背任であると言わなければならない。
 手数料完全自由化によって商品取引員の倒産が予想される昨今、委託者の預託金及び取引益金等は委託者自身の財産であるから、これを商品取引員の債権者から差押、相殺されないようにするためには、委託者名義で口座を作り、商品取引員の財産とは識別できるようにし、取引の精算はすべて委託者名義の口座を通して行うことが単純で確実である。
 保管場所は、取引所が相当である。
 金融機関に保管する場合も同様に、預託金が委託者の財産であることを明示するために個々の委託者名義で口座をつくり保管すべきである。
 いずれにせよ、先物取引では、高額の金銭が出入りし、先物手数料も高額であるから、商品取引員が個々の委託者名義の口座を作れないという口実は許すべきではない。