差玉向い玉を違法とした最高裁判所判決(平成21年7月16日)

 この判決(最判)により、差玉向い玉(差玉向い)を行っている業者に対しては、他に何の違法性がなくても、「差玉向いが存在し、そのことを顧客に説明していない」、というだけで不法行為が認められる可能性が高くなったものである。


   最高裁判所判決(平成21年7月16日・平成20年(受)802号)

(上記のページから最判の判決全文まで見られます。)

 商品取引員は,商品先物取引委託契約上,専門的知識のない委託者に対し,差玉向かいを行っている商品先物取引の受託前に,差玉向いを行っていること等の説明義務を負い,上記取引の受託後も,委託玉が自己玉と対当したことの通知義務を負う。



 「差玉向い」 とは,完全向い玉(向かい玉)が顧客の各建玉について、すべて「買い」に対しては「売り」、「売り」に対しては「買い」と、反対の建玉を建てるのに対して、顧客の総注文における「売り」と「買い」の差数だけ、少ない方の建玉を業者が自己玉として建てるものである。

 業者の「自己玉」は、立会時間終了後、各取引所に申し出るだけで,当該立会の約定値段で売買約定を成立させること(以下,これを「バイカイ付け出し」という。)を利用し、顧客の総注文の「売り」と「買い」の差の少ない方を建てることにより、その業者にかかる注文の「売り」と「買い」の枚数を一致させることを「差玉向い」という。

 この業者は、商品の種類及び限月ごとに,委託に基づく売付けと買付けを集計し,売付けと買付けの数量に差がある場合には(以下,この差を「差玉」という。),差玉の約1割から3割だけを商品取引所の立会に出し,立会終了後,委託に基づく同数量の売付けと買付けにつき,バイカイ付け出しにより売買約定を成立させ,また,立会に出されなかった差玉につき,対当する自己玉を建てて,バイカイ付け出しにより売買約定を成立させることを繰り返す、「差玉向い」の手法を用いていた。

 「差玉向い」がなされた場合、顧客総体の損益と、その業者の損益の合計は、ゼロとなる。つまり、顧客総体の損失額イコール業者の利益額ということになり、顧客総体と業者は、完全に利益が相反することになる。

 そのような場合、故意に顧客に損失を与えるような勧誘をする危険性が内在することは明らかであり、業者が顧客に与える情報の信用性の評価を低下させるもので、投資判断に重要な影響を与えるものである。

 したがって業者は、「差玉向い」を行っている場合はその旨と、それが利益相反の可能性が高いことを十分に説明し、自己玉を建てるたびに顧客の委託玉と業者の自己玉が対当する関係に立つかどうかを顧客が確認できるようにしなければならないとしたものである。