2004年9月15日

商品取引所法改正後の
自主規制整備に関する意見書


       先物取引被害全国研究会
              代表幹事 弁護士 津 谷 裕 貴  同
              事務局長 弁護士 山 崎 省 吾

目    次
第1 はじめに
第2 自主規制について
第3 取引所関係
第4 日本商品先物取引協会
第5 おわりに
第1 はじめに
1 本年5月12日改正商品取引所法が公布され、政府はそれに伴うガイド ラインン策定、政省令整備を行っている。
  言うまでもなく法改正の目的を達するためにはその担い手である自主規 制機関の役割は極めて大きい。
2 当研究会は昨年12月4日「先物取引制度改革意見書」(以下、意見書と いう)を公表し、制度改革に必要な事項を提言している。
  意見書のうち、自主規制機関に関係する提言の骨子は次の通りである。
 (1)基本的視点として、一般委託者は先物取引に不可欠ではないことから、一般委託者への勧誘は禁止すべきである。一般委託者が商品取引を行う場合は、少なくとも不測の損害を被らないよう十分配慮し、いわゆる不招請勧誘は禁止すべきである。
 (2)先物取引ルールに関する改革として、先物取引広告勧誘の禁止、適合性原則の徹底、説明義務の充実、習熟期間の導入、新規委託者保護の徹底、両建禁止、特定売買禁止、向玉などの禁止、実効性あるルールを確立すべきである。
 (3)取引所改革として、板寄せ廃止し、完全ザラバの実施、バイカイ付け出し禁止、取引所監視機能の強化、取引所の統廃合。
 (4)日商協改革として、日商協を米国のNFA(National Futures Associations 全国先物協会)なみに組織、権限を強化すること、紛議解決機能の充実。
3 この意見書は、現在も正しいものと確信しているし、今回の法改正では、 これに沿った内容もいくつか取り入れられていることは周知の通りである。
  本意見書は、今般成立した改正商品取引所法の内容、国会での委員会審 議、付帯決議等を踏まえ、自主規制機関として今後整備すべき制度、自主 規制規則等についてより具体的に提言するものである。
第2 自主規制について
1 ここでいう自主規制とは
   ここでいう自主規制は、先物取引に関する法令諸規定のうち、国や政府が制定する、法律、政令、省令、今後予定されているガイドラインを除いた、他の機関、すなわち、各取引所、(社)全国商品取引所連合会、日本商品先物取引協会が制定する定款、各種規程、細則、受託等業務に関する規則、その他をいう。
2 自主規制の内容の原則
  自主規制の内容が法令に違反しないことは言うまでもないが、重要なことは、それに止まらず、委託者保護に関する規定については、法令よりも厳しい内容、すなわち上乗せ基準を盛り込むことである。
3 公正な内容と厳しい制裁で実効性の担保
  健全な先物取引制度を実現するうえで、自主規制機関の役割は大きい。昨 年行った米国先物取引制度を調査して、NFAや、各取引所にある委員会等 の重要性を改めて知った。
  そこでは、取引の公正を確保するための会員に対する厳しいルールとルー ルと、違反に対する厳しい制裁で実効性を担保していた。
  この点は我が国の自主規制機関の見習うべき点である。
4 デイスクロージャー
  徹底したデイスクロージャーを行い、違反者に対しては厳しい制裁を課す こと、これが先物取引の公正さを確保し、信頼性向上につながる。
  デイスクロージャーは、その範囲や内容を毎年拡大する方向で検討すべきものであるが、昨年は業者のエゴとしか思えない建玉開示について制限するよう働きかけがあり、それにいわば屈しているような現状は遺憾であって、改めるべきである。むしろ、取引所によっては、弁護士法23条照会に対して拒否するものもあり、デイスクロージャーの趣旨からみて逆行し、到底容認できないような状況にある。
  商品取引員のデイスクロージャーについても、訴訟件数等について、虚偽の報告をしたと疑われるものがあるが、厳しい制裁を下していはいない。
  徹底したデイスクロージャーと、その拡充、違反に対する厳しい制裁なくして、先物取引の信頼性は確保できない。
  以下、取引所、日本商品先物取引協会(以下、日商協という)について、商品取引所法改正にともなう自主規制のありかたについて、より具体的に提提言する。

第3 取引所関係

1 板寄せ、バイカイ付け出しを廃止し、完全ザラバの実施
(1)売買仕法として、ザラバを採用するか、板寄せを採用するかは、法令に規制がなく、各取引所の業務規程で決定されている。
(2)板寄せは、バイカイ付け出しが不可欠であって、これによって、向玉
  の温床となっていると指摘されて久しいが、いまだに、東京工業品取引所を除き、我が国の先物取引は、板寄せとバイカイ付け出しが行われている。
(3)この売買仕法は我が国独自のものといわれ、向玉を中心とした客殺しの温床といわれているのに、改めないのは遺憾としか言いようがない。
   これが行われている限り、我が国の先物取引制度に対する根本的疑念が払拭されず、国際化、グローバルスタンダードを語る資格はないと言わなければならない。
(4)また、ザラバを採用する東京工業品取引所でも、取引開始と終了の際には、板あわせといった板寄せ同様の仕法を採用し、完全なザラバを採用しているとは言い難い。
   米国の取引所では、全てザラバであるが、東京工業品取引所のような取引開始と終了に板寄せを採用しているところはない。
   ザラバを採用するのであれば、最初から最後まで一貫すべきである。
  これらの点について、日弁連米国先物取引調査団最終報告書6頁、38頁以下を参照されたい。


2 監視体制の強化(ダミー玉、自己玉、向玉規制等のあり方)
(1)向玉を禁止し、自己玉は委託玉の10パーセント又は100枚以内とすべきである。
(2)取引所での取引が公正に行われているか、とりわけ、商品取引員のダミー玉、向玉の問題である。
   これらを監視するには、市場取引監視委員会の存在、役割が期待されているが、現在のところ、期待に応えているのかどうか疑問である。
(3)日弁連米国先物調査では、各取引所に、我が国の商品取引員のように、取組高均衡の注文を出すことが多いことについて、感想を求めた。
   米国ではそのような注文はないとのことで一致し、CBOTでは、質問の意味も理解しにくいといった様子であったが、NYMEXでは、「NYMEXでこのようなことがあれば、調査する必要がある」とのことであった(前掲日弁連報告書55頁以下参照)。
(4)市場の公正確保のための監視は、取引所の命であり、米国ではそのための各種委員会を設置し、日々、厳しく監視、監督している(日弁連報告書44頁以下参照)。
   また、不正な取引を監視するソフトもあるとのことであった。
(5)我が国でも、市場取引監視委員会があるものの、積極的に監視するというよりも、理事上からの諮問に対する答申するだけといった消極的な姿勢が伺われ、米国とは比較にならない。
   今後、不正な行為を日々厳しくチェックする体制を整備し、市場取引監視委員会の権限強化やこれをチェックするソフトの開発等取り組むべきである。
(6)商品取引員の自己玉は、委託玉とは全く別個の純粋な自己デイーリングと、それとは別に、委託者の建玉に向かう向玉がある。自己デイーリングであれば先物取引の投機性、危険性が商品取引員にも当てはまり、財産を危うくし、倒産しかねない状況に陥るからその観点から、純資産に応じた割合で規制することにもある程度合理性はあるが、向玉については、客を食い物にするものであって、合理性は全くない。そして、自己玉が、純粋なデイーリングか向玉かの区別はつきにくいのであって、少なくとも、大半の商品取引員が取組高均衡ということは、大半の商品取引員が向玉を行っていると推認できるのであって、こうした状況では、商品取引員の自己玉については、かつて行われていた農水省の自己玉規制通達「農産物の商品取引に関する取引方法の改善について」(農林省農林経済局長通達45農経C第1631号)にあるように、向玉は、一律禁止し、自己玉は、委託玉の10パーセント以下、又は100枚以内といった、明確な基準を示すべきである。そしてこれを担保するため、商品取引員が取引所に預託する取引証拠金を大幅に引き上げるべきである。

3 法令、自主規制違反には厳しい制裁を
(1)会員、外務員が訴訟で法令、定款、準則違反で損害賠償を命じられたら、これに連動して、取引所も制裁処分を行うこと。
(2)取引所定款によると、会員に「取引の信義に反する行為」(10号)、「関係法令若しくは定款、業務規程、受託契約準則その他規則の規程に違反した」場合は、1億円以下の過怠金、若しくは6月以内の取引停止となっており、さらに、これは、会員の使用人が行った場合も会員は責任を負うということになっている。
(3)しかし、取引所のこの制裁は極めて、甘い。
   例えば、分離保管違反でも、取引停止1日間ないしせいぜい5日間程度にすぎない(日弁連先物取引被害白書2002年度版33頁)。
  米国の自主規制機関による処分とは余りにもちがいすぎ、愕然とする。
(4)さらに、、法令、定款、準則違反等の関係で言えば、先物訴訟で、商品取引員、外務員に対して、損害賠償が命じられても、これに連動して、取引所が処分をしたという例をきかないのは、どういうわけか。
   訴訟で、商品取引員、外務員の違法性が確定しても、取引所が制裁規定に基づき処分しないのは、取引所の監督権限放棄に等しいと言わなければならない。
 
4 弁護士法23条の2照会に回答すること
(1)向玉等を立証するために、弁護士法23条の2に基づき取引所に、売買枚数調査(建玉、取組高照会等)を行っているが(弁護士会照会)、これを拒否する取引所があるが、回答すべきである。
(2)弁護士照会は、受任している事件について、訴訟準備、示談交渉のために行っている。これに対して、商品取引員の建玉、取組高について、回答を拒否する取引所があるが、その理由として個人情報であることを挙げるが、不当である。これまで、回答には応じできたという前例があるし、また、そうした懸念があるのであれば、最初から、弁護士会照会には、建玉枚数等の回答に応じる旨周知徹底させればそれで済む話である。

第4 日本商品先物取引協会

1 日本商品先物取引協会(日商協)の制定する自主規制規則は、内容において商品取引所法、政省令、今後制定されるガイドラインの「上乗せ基準」であること、これを遵守するための実効性ある制度、自主規制の位置づけを明確にし、自主規制を遵守する義務があること、違反に対しては損害賠償、取引処分等厳しい制裁を行うこと等を盛り込むべきである。
   また、デイスクロージャーを拡充すること、弁護士法23条の2照会に回答すること等これまでの取組を改善すべきである。
   以下は主に、自主規制規則の内容を中心に提言するものである。

2 受託業務に関する自主規制規範遵守を受託契約上の義務として位置付けること等
(1)受託業務に関する自主規制規範は、改正法の趣旨を体現するものであるべきはもちろん、その性質上、広義の勧誘規制の全ての場面において、法令、ガイドライン等による規制を進める、「上乗せ基準」でなければ意味がない。

(2)自主規制による取引員外務員の義務等が遵守されることは、取引の勧  誘・受託が適正なものとなるに不可欠の前提である。したがって、委託  者保護、受託業務の適正の観点から、自主規制によって取引員外務員に  課せられた義務を、受託契約上の義務とすることが望ましい。
   現行の各取引所が定める受託契約準則と同様、自主規制規範が、受託  契約の内容を構成するとし、その違反が、受託契約上の義務の不履行を  構成することが明確にされるべきである。
さらに、上記各義務の不履行があった場合には、取引員外務員に損害賠償責任が生じることを明確にするべきである。

3 受託等業務に関する規則に盛り込む事項
(1)適合性原則
   改正法215条は、適合性原則を正面から規定し、取引員がこれを遵守しなければならないものとした。改正法の趣旨を全うするためには、自主規制規則において、適合性原則の遵守と、その内実、あるいは当然の前提となる顧客調査義務について、充分な定めが置かれる必要がある。従前から、自主規制規則において、氏名、住所、連絡先、職業及び職歴、年齢、推定収入及び資産の状況、投資的投機的取引経験の有無顧客調査義務が定められているが(日本商品先物取引協会受託業務管理規則3条2項、同ガイドライン2(2))、充分な調査義務が尽くされているとはいえない現状にあることから、調査事項及びその程度について、自主規制規則に明示する必要がある。
   上記に加え、先物取引に参加する動機、家族構成、具体的な収入及び資産の量、その使途、保有の目的、負債の有無、その数額、投資的投機的取引の経験がある場合にその期間、投資金額及びその結果、相場判断の基礎となる情報等の入手方法、取引所立会時間帯の就労ないし生活状況、を調査するべきことを明記するべきである。保有資産については、客観的な調査方法を講じることが必要であり、預貯金証書、有価証券、確定申告書控え、源泉徴収票等によって確認する義務があることを明示すべきである。なお、顧客調査義務の加重に伴い、当然に取引員外務員の守秘義務を加重する必要がある。
 理解能力についても、客観的な方法によって調査されるべきである。先物取引の基本的仕組みについて、外務員の関与を排し、被勧誘者の真正な知識を明らかにさせるため、取引員は、新たに先物取引の委託をしようとする者に対して、日本商品先物取引協会が行う、先物取引の基本的知識を計る「テスト」を受けさせなければならないものとし、その結果を適格性判断の資料に用いることを要するものとするべきである。
そして、適合性は、具体的取引との関係においても問題となり、取引の内容によっては、取引継続中に適格を失うこともある。したがって、取引が一定程度拡大し、あるいは、委託資産が一定程度増加した場合には、改めて上記各事項について調査をする義務があることが明示される必要がある。
上記の調査の結果、知識経験、理解能力、資産、投資意向、時間的余裕等に照らし、先物取引に適合しない顧客に対しては、先物取引の勧誘をしてはならず、あるいは、取引の受託を止めなければならない。
借入による委託資金の工面が、直ちに資金的不適格を意味することは明らかであるが、現在においても、借入による委託資産の工面を持ちかけ、あるいは、借入による資金の工面を知りながら取引の受託を継続する例が見られる。借入による資金を原資とすることを勧誘すること、借入によって工面した金銭によって取引を行っていることが明らかになった場合に、受託行為を継続することは、それぞれ、明示的に禁止される必要がある。

(2)勧誘規制
電話や戸別訪問による勧誘を受け、リスクについて理解しないまま受動的に取引を開始したことによるトラブルが頻発していることに鑑みると、商品先物取引については、取引を希望しない消費者に対する訪問・電話勧誘を禁止するべきである。英国では、価格変動の激しい商品について、顧客の要求に基づかない電話・訪問勧誘を禁止しているが、わが国においても同様の規制を導入するべきである。
そして、その実効性を確保するためには、これに違反した勧誘によって取引の委託が行われた場合には、被勧誘者は、取引委託の意思を撤回することができ、取引員は、撤回された取引が、被勧誘者の計算に属することを主張し得ないものとするべきである。
ところで、現在、先物取引勧誘拒否者リストを作成して、登録者に対する電話勧誘を禁止する、いわば日本版「do not call」制度の採用が検討されているやに聞く。同制度は、不招請の勧誘を一定程度抑止させるものとして、その方向性には一応の評価が可能ではある。
しかし、取引員外務員が、顧客リスト等を持ち出して他の取引員や外国為替証拠金取引等の他業種に移動するなどする事態が日常的に生じており、商品取引員ないしその外務員に、顧客情報の管理が徹底されていないことは明らかであって、このような現状において、「勧誘拒否者リスト」を取引員外務員に管理させることになれば、商品取引員からの勧誘がなされなくなったとしても、他の業種等からの不招請の電話等勧誘がより頻繁かつ執拗になされることになることが極めて強く危惧される。
 従って、先物取引勧誘拒否者リストを作成し、登録者に対する先物取引の勧誘を禁止すると言う制度を採用する場合には、登録名簿を取引員に開示するのではなく、日本商品先物取引協会にその作成、管理に関する権限及び責任を一元化させ、外務員が電話ないし訪問勧誘をしようとする都度、日本商品先物取引協会に対して、個別に、勧誘の可否を問い合わせなければならないものとするべきである。なお、同様の観点から、取引員ないし外務員は、勧誘拒否者リストを作成してはならないものとしなければならない。
このような方策を採ることなく同制度を導入することは、あってはならない。

なお、改正法は、取引の勧誘に先立って、先物取引の勧誘をしてよいかを問わなければならない旨規定した。この趣旨を全うするためには、少なくとも、取引員外務員は、取引の勧誘に先立って商品先物取引の勧誘であることを明確に告げられた者が、FAX等の文書によって、商品先物取引の勧誘を受けても良い旨の意思を表示した場合に限り、勧誘を開始することができるとするべきである。一度勧誘を了承した者が、勧誘を拒否した場合に勧誘を継続できないものとすることは当然である。
そして、「勧誘に先立って意思確認をする」との自主規制を遵守したことについては、取引員に、録音記録の作成とその保存、被勧誘者からその開示を求められた場合の開示をそれぞれ義務付けさせるべきである。そのような義務を課さなければ、しばしば、委託者の真意を反映しない文書が作成されることがある現状において、法の趣旨を全うすることは不可能である。

(3)広告の適正
商品先物取引の広告をする場合には、「商品先物取引は、極めて投機性の高い取引です。」「相場変動・手数料負担等によって、多額の損失を被る危険性が大きい取引です。」「預託した委託証拠金を超える損失が生じる危険性があります。」「商品先物取引を理解するに足る経済知識のない人、投機取引の経験のない人、投機性に耐え得る余裕資金・収入のない人には勧められません。」旨の文言を、大きなポイントで、読者にとってわかり易い位置に警告表示させるべきである。「投資」、「資産運用」等という文言は、誤解を招くおそれが極めて大きい。禁止するべきである。
また、商品先物取引を勧誘する目的で、商品先物取引以外の現物取引、投資関連資料の送付、経済講演等を広告する、いわゆる「おとり広告」は、商品先物取引のような高度の危険性のある取引をする積極的な意思がなく、むしろ、貯蓄的金融商品の取引を望んでいる者に対する先物取引の勧誘の端緒となっていることから、禁止すべきである。

(4)説明義務
 1)不当勧誘の禁止
当初の勧誘時、取引継続中、手仕舞いの各段階において取引員側に禁止されている不当勧誘の諸類型については、委託者に対して、その禁止される理由を含めて特に十分な説明を加えて理解を得ることが必要である。即ち、@取引の適合性、A新規委託者保護義務違反、B断定的判断の提供、C無断売買・一任売買、D両建、頻繁売買E向い玉、F無敷・薄敷、G利乗せ満玉、H仕切り拒否等の禁止行為について、委託者に理解しやすく表現された説明資料を用意し、これに基づいて委託者が理解するように説明する義務があるとするべきである。
2)取引の適合性
   @取引は必ず自己資金、かつ余裕資金の一部の範囲内で行うべきこと、A勧誘時に各種アンケートが行われる趣旨は、商品先物取引が投機性の高い取引であることから、取引を行うことについての適合性の有無を判断する必要があり、その適合性判断の資料とするためであること、Bしたがって、各種アンケートには必ず正確な内容を記載すべきであり、担当外務員が真実と異なる記述を指示した場合にも、これに従ってはならないこと、C投資経験が全く無い等、知識・経験を欠く場合には先物取引の危険性から慎重に検討すべきこと、等について説明すべきである。
3)新規委託者保護義務
   この建玉制限が、未経験者が知識・経験が不十分な段階で高額の取引を行った結果、多大な損害を蒙ることの無いように、新規委託者を保護する制度であり、その限度を超過する取引は受託できないことを説明すべきである。
4)断定的判断
   例え、担当外務員が、現在の相場では予測が外れることはないと請合った場合でも、確実な相場予測などというものは有り得ないことを明確に説明すべきである。
5)無断売買・一任売買
   取引に際し、委託者は、必ず取引銘柄、限月、枚数、新規・仕切の別、売り・買いの別、成り行き・指値の別等について、個別指示を与えなければならないこと、またその趣旨について明確に説明すべきである。
6)両建、頻繁売買(コロガシ)
   @5種類の特定売買類型は、原則的に不合理な取引方法であること、Aどのような建玉・仕切りがこれに該当するのか、B何故それが原則不合理であるのか等について、委託者に理解できるような平易な表現で、明確に説明すべきである。
   特に、両建については、@手数料が2倍かかること、A売りと買いの両方の外し方が難しいこと、B限月違いの両建も同限月と基本的に同じことであり、むしろ一時的な損失固定の保証さえもないこと、等について判り易いような形で説明すべきである。現在しばしば行われている、両建があたかも思惑が外れた場合の適正な対処方法の1つであるかの如き紹介は禁止するべきであり、むしろ取引員側からの両建勧誘は商取法上明文で禁止されていること、委託者自らが上記のとおりのデメリットを完全に理解しながら自らの意思で行うべきものである旨を委託のガイド等の事前交付書面の一内容として掲載するようにすべきである。
7)向い玉
   @当該取引員が同一銘柄の自己玉を建てることがあること、Aその場合には、両者の利害が相反することを、平易な表現で説明するべきである。また、自己玉が委託者との利害相反を生じさせるものであることからすれば、その具体的建玉状況は、委託者にとって外務員の勧誘文言をどのように評価するかに当たって重大な判断要素となりうるものであるから、自己玉の明細を書面で明らかにすることを要するものとするべきである。
   具体的には、委託者と同時期に同一取引所において同一銘柄の自己玉による取引を行う取引員は、@新規に委託者と委託契約を締結して取引口座を開設するに当たり、過去の一定期間(少なくとも3会計年度程度)における自己取引による損益と委託取引による損益を年別に委託者に開示し,自己取引と当該委託者が行おうとする取引との関係を説明しなればならないものとすること、A取引継続中にあっても委託者の取引と同種の商品についてなす自己取引につき、売買報告書または残高照合通知書(あるいはその双方)にその内容(現物商品先物の場合には商品銘柄・限月・自己未決済建玉の売買別数量等)を掲示することなどである。
8)無敷・薄敷
   無敷・薄敷の結果、委託者が用意できる証拠金の限度を超えて建玉が行われ、委託者の利益が害される可能性があるため、仮に外務員から無敷・薄敷による勧誘が行われても従ってはならない旨を、判り易く説明すべきである。
9)利乗せ満玉
   例え一時計算上の利益が出ても、それを新たな証拠金にして建玉を増やして行けば、相場が逆転した場合に多大な損失を蒙る危険があることを、判り易く説明すべきである。
10)仕切拒否
   委託者が仕切り・手仕舞いを求めた場合にこれに応じないことは、違法行為であることを明確に説明すると共に、委託者が手仕舞いを求める場合には、簡単に取引から撤退できるように、例えば手仕舞い請求のための定型書式をFAXまたは郵送で送付すれば、直ちに望むとおりに即時の手仕舞いが可能となるような手続を整備し、最初の勧誘時にその手続を説明するべきである。また、要追証状態であっても、追証を入証することなく取引を終了させることができること、制限値幅に達している場合でも取引終了の注文をすることは可能であることについて、説明させるべきである。

(5)説明義務の適用範囲
   委託者に対する説明義務は、取引継続中は存続するものであって、委託者側に理解不十分な点や誤解が認められる場合には、取引員外務員はさらに充分な説明を尽くし、誤解を正す義務があることが明記されるべきである。

(6)事前交付書面の交付時期
   上記各事項を記載した事前交付書面については、委託者が取引開始前に熟読して、その内容を十分に吟味する機会を与えるために、少なくとも、受託契約締結の1週間前までに交付することを義務付けるべきである。

(7)熟慮期間の設定、遵守
先物取引は、充分な理解能力を持つ者であっても、その仕組みについて、外務員の説明を受けるのみで、取引をするに足りる程度に理解しうるものでないことは明らかである。
   受託契約締結後、少なくとも14日間の熟慮期間を設け、14日間経過前に受託してはならないとすべきである。

(8)新規委託者保護育成措置 
新規委託者を保護し、育成させることは先物取引が国民経済において正常な機能を果たしうる不可欠の前提である。新規に先物取引を行う者に対しては、最低3か月以上の習熟期間を設定し、この間の受託可能取引数量を相当程度に限定させるべきである。限定される取引量は、1時点の取引について、取引単位で20枚が相当である。金額での規制は、追証への対処等に問題が生じ、現実的でない。
新規委託者保護育成措置の趣旨、及び、各商品取引員において現在定めている受託業務管理規則等において例外措置が広く認められ、新規委託者に対する受託規制がほとんど実効性を有しない現状に照らし、建玉制限を解除しうる例外的要件を定めることは許されないものとしなければならない。同様の観点から、利益金を証拠金に振り替えるなどして取引を拡大してならないものとしなければならない。新規委託者保護育成措置の趣旨が、新規委託者に先物取引による損益の発生を体験的に習得させ、不測の損害を被らせない様にするところにあることに照らし、取引によって生じた益金は、その都度清算し、現実に委託者に返還させることを必要とすべきである。
また、特定売買と呼ばれる取引手法(直し、途転、日計り、両建、手数料不抜け)  についても、少なくとも、委託者に経済的メリットを生じさせないことが少なくないこと、  頻繁に繰り返すことにより、手数料稼ぎの手法として悪用されることがしばしばあること  は、異論がないところであろう。改正法に対する両議院の付帯決議も、「その悪用につい  ては厳正に対処すること」を求めている。
    両建以外の特定売買は、両建と異なり、その時期、売買価格、相場の騰落状況によっては、委託者の利益になることもないではないことから、その勧誘を一律に禁止することは相当でないとしても、徒な取引の拡大とそれによる不測の損害の発生から新規委託者を保護するべきであるという、上記新規委託者保護育成措置の趣旨に照らし、新規委託者保護の習熟期間中は、いわゆる特定売買をすることを勧誘してはならないものとするべきである。

(9)両建勧誘禁止
    改正法は、法律によって、同一限月同一枚数の両建を勧誘することを禁止した。「損失をとりあえず固定するため」には、同一枚数同一限月の両建てが最もよくその効用を発揮するのであるから、法律は、「損失をとりあえず固定するため」と称してされる両建勧誘が、経済的合理性を欠くことを今更ながらに確認し、その勧誘を禁止するものと解釈される。限月が異なる場合にも、「とりあえずの損失の固定」の趣旨で両建を勧誘することが許されないことは当然である。
    しかしながら、法律による両建規制がない現在でも、「損失をとりあえず固定する」ためであるにもかかわらず、「同一限月の両建」となることを避けるため、あえてその必要もないのに限月を異ならせる両建勧誘が極めて頻繁に行われている。このような取引の勧誘が、改正法ないしその趣旨及び改正法に対する両議院の付帯決議ないしその趣旨に違反するものであることを確認し、その脱法的取引勧誘を排除することは、極めて重要である。
したがって、自主規制には、「限月及び枚数の異同にかかわらず、売買双方の建玉を同時に保有することを勧誘してはならない」ことを明示して規制することが必要である。
そして、そのような勧誘がなされなかったことを取引員において証明させるため、委託者に対して、限月を異ならせてする両建を選択する理由について、書面で明らかにさせることを求めなければならないものとするべきである。


(10)いわゆる特定売買(コロガシ)に関する自主規制について
  1)自主規制による過当取引規制の必要性
「委託者の十分な理解が得られないまま顧客の計算で過度の売買取引を執行する行為の禁止」のルールと、日商協によるその監視・監督方法、制裁等による実効性確保の方策を、自主規制規則において明定すべきである。
この点、過去の規制としては、全商連の策定にかかる新・旧取引所指示事項の上でも、新指示事項が、「受託者の十分な理解を得ないで短期間に頻繁な取引を勧めること」及び「受託者の手仕舞指示を即時に履行せずに新たな取引(不適切な両建を含む)を勧めるなど、受託者の意思に反する取引を勧めること」を「不適正な売買取引行為」として禁じ、あるいは旧指示事項は「無意味な反復売買・ころがし」(同7)「過当な売買取引の要求」(同8)「不当な増建玉」(同9)「両建玉」(同10)を禁止していた。更に、周知のとおり、行政通達としても、いわゆる農水チェックシステム並びに通産MMTは、特定売買比率・手数料化率・売買回転率の3指標による監督・指導の体制を設けていた。
これらは、平成10年商取法改正を機に明文としては廃止された形とはなっているけれども(但し、両建を除く)、この過当取引ないしコロガシの問題は、向い玉と並んで取引員・外務員側によって最も頻繁に用いられる客殺し手法であって、委託者との間の紛争を頻発させる主因とも位置付けることが出来る。そのため、多くの裁判例の上では、商品先物被害の核心的違法要素として原告被害者側から主張され、判決理由中においても、上記チェックシステムの3指標を客観的メルクマールとして、取引員側の違法性を認定する事案は多数に昇っていることからも、現在でもその規範性は失われていないどころか、日商協としても、先物業界全体の健全化と信用の回復のために、上記過当取引の観点からの自主規制強化をすることが益々必要とされていることは明らかである。
  2)具体的な過当取引規制の在り方
    規制の在り方としては、取引員の全てが、各社毎における全委託者の前記3指標(特定売買比率・手数料化率・月間平均売買回数)の各平均数値についての報告を受け、その数値をディスクロージャーの一内容に含めること、個別委託者の情報についても、日商協への苦情申立または民事訴訟の提起等により紛争が顕在化した場合には、上記数値を含めた具体低事情について報告聴取を求め、事案として悪質と評価される場合には当該取引員に対する制裁権限を設ける等の措置が考えられる。

(11)あっせん・調停手続の充実等
  1)日本商品先物取引協会のあっせん・調停手続の現状は、より早期かつ柔軟な解決を本旨とするADR機関としては充分に機能していない。あっせん・調停委員の大幅増員を含む早期の体制整備による改善が望まれる。
 2)証拠収集手段の拡充
    日本商品先物取引協会におけるあっせん・調停においては、定款59条が「あっせん及び調停に必要な調査」について定め、紛争処理規程11条も「あっせんに必要な調査等に係る措置」の定めを置いてはいる。しかし、これらは現状としてはこれらの証拠収集手段を強制できるまでの規定の仕方とはなっていない。上記定款・規程の条項中にこれら調査方法を取引員に対して強制力を持って義務付けることができるような制度改善が望まれる。
    また、日本商品先物取引協会には、違法行為の存否に関する立証責任を取引員に課して発動しうる制裁権限がある。日本商品先物取引協会としては、上記あっせん・調停の申立によって制裁権限の発動の端緒を得た場合には、取引員に対して充分な情報の開示を求めて、自ら取引員外務員の勧誘・受託行為に法令・自主規制違反がないかどうかを調査し、積極的に制裁権限を発動すると共に、調査結果を、あっせん・調停手続きの資料とするべきである。
  3)調査結果の開示
  現行の苦情処理規則14条は、日本商品先物取引協会が処理を行った苦情について、商品取引所その他の一定の相談機関からの要請を受けた場合には、当該事案の顛末を口頭または書面により通知することとしている。
  しかし、日本商品先物取引協会の適正な権限発動を促すためには、これをよりよく監視しうる者、すなわち、苦情処理、制裁権限の発動を求めた当事者に対して報告させることが望ましい。


4 外務員の登録等について
 (1)法令・自主規制等に違反したことが明確になった外務員に対しては、速やかな登録取消・抹消が行われると共に、一定の年限、再度の登録を認めない等の厳しい措置が検討されるべきである。
 (2)また、登録外務員の過去の違反行為については、取引員に対する制裁と同様、公開すべきである。
 (3)更に、外務員も被告にする先物訴訟では、提訴の際の訴状送達先の確認の便宜等のために、外務員の住所や外務員としての経歴・過去の処分歴等については、日商協及び各取引員が、弁護士法23条の2照会、調査嘱託等があった場合は、回答するよう義務づけるべきである。

 5 情報開示
   現在、取引員の苦情・紛争の件数、訴訟の件数が日商協のホームページでも公開されているが、真実の紛争件数を反映しているものとはなっていないのではないかと思われる。適正な情報開示のため、日商協のあっせん調停手続きについては申出日を、訴訟事件については裁判所、事件番号を、それぞれ公表させるべきである。
   また、公表事実が真実でないことが明らかになった場合には、厳しい制裁を課すべきである。

第5 おわりに

 当研究会の意見は、日頃弁護士として我が国の先物取引被害の現状と先物訴訟、示談交渉等による被害救済に取組んでいる経験、昨年実施した日弁連の米国先物調査団に主体的に参加し、先物先進国といわれる米国の先物取引制度の現状をこの目で確認したことを踏まえ、今後の我が国の先物取引制度のあるべき姿を提言するものである。
 日商協を米国NFA並に組織、権限を強化すべきであるという当研究会の提言は、それだけ先物取引における自主規制機関の重要性を認識し、期待していることの表明に他ならない。
 当研究会の意見を大幅に取り入れ、公正で世界的にも信頼される先物取引制度改革が実現されることを念願している。