「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の一部改正案」に対する意見

 

2008年3月7日

金融庁御中

                                    先物取引被害全国研究会

                  代表幹事弁護士大迫惠美子

                 事務局長弁護士荒井哲朗

意見の趣旨

1 登録を要する金融商品取引業を無登録で行う金融商品取引業者が行う金融商品取引について、当該金融商品取引業者は当該金融商品取引が有効であることを主張することができないこととするよう金融商品取引法を改正するべきである。

2 店頭金融先物取引である店頭外国為替証拠金取引について最大レバレッジを30倍とし、併せて、店頭金融先物取引業者は顧客の預り資産の全てを信託の方法によって分別管理するべきこととするよう金融商品取引業等府令を改正するべきである。

 

意見の理由

第1 無登録業者への対応方法について

1 今回、監督指針改正案が公表されたが、すでに、無登録業者による金融商品取引まがい取引(特に未公開株商法)は夥しい被害を発生させてきており、この公表は遅きに失したとの批判も、あながち的はずれとはいえないであろう。御庁にあっては、早急に、無登録金融商品まがい商法の事実関係の解明等を行うとともに、詐欺商法の急増により、莫大な額の一般消費者の大切な生活資金が詐欺商法によって騙取されるがままになっている状況を、一刻も早く正常なものに戻すよう努力されることを強く求めたい。

2 ところで、無登録商法に対する適切な対応が遅れていた原因の一つに、無登録業者には監督権限が及ぼしにくいという実情があったものと推測される。御庁においてはそもそも登録業者でないので行政処分の対象とすることができないし、他方、刑事摘発においては人的物的能力に比して対処すべき犯罪が多すぎるという実務上の理由があったものと推察されるのである。

しかしながら、我が国の業法規制をつぶさにみると、登録制度は様々な金融商品取引規制(一般投資家の保護をその大きな目的の一つとしている)の実効性を担保する、根幹となる制度であることが分かる。すなわち、各業者は登録を得ることで当該金融商品業者として営業を認められ、種々の便益を得られる一方で、規制違反に対しては監督官庁による行政処分がなされることにより、各業者の業規制遵守の動機づけがされる。そして、その行政処分の最も重いものが許可登録取消処分という営業権の喪失になっているという構造が採られているのである。

そうした構造を前提とするときに、登録制度という秩序ある囲いの外側に、規制の及ばない無登録業者の暗躍する荒野が無限に広がるのを放置するのは、金融商品取引秩序と相容れない金融商品まがい取引の存在を許すことに他ならない。登録制度という秩序ある囲いを実効性のあるものにするためには、囲いの外側でなされる個別規制の及ばぬ取引について、その効力をことごとく奪ってしまうほかはない。金融商品取引における無登録営業は、類型的に一般投資家の利益を害するものとして、私法上もその効果が否定されるべきなのである。

3 かつては公法と私法を峻別し、法秩序の維持を公的な取締りに委ね、私法は当事者間の利害調整を行うべきとの考え方が支配的であった。しかし、行政機関の人的・物的能力が違反をなくすには極めて不十分であることが明らかとなり、多発する被害の防止と救済という法の目的を達成するためには、むしろ民事効果を伴う法改正が必要があるとの認識が深まっている。例えば、特定商取引法は、かつては典型的な取締法規とされていたが、その後民事上の効果を定める規定を充実させてきた。クーリング・オフ妨害の規定新設、禁止行為違反の勧誘による取消権、中途解約権などの新設や損害賠償請求の制限など、その規定は幅広い。そして、今国会でも過量販売取消権などを盛り込む改正が予定されている。

  金融分野においては、金融制度改革との関係で業者ルール・取引ルール・市場ルールの関係が検討されてきた。そして、金融商品取引法は、その1条に「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成を図り」と明記した。これは、資本市場法制論の学説において強調されていたものである。この考え方においては、業者ルールも取引ルールも広い意味では市場ルールに包含される関係にあり、取引の効力を認めるかどうか、損害賠償請求を認めるかどうかに際しても、市場機能の発揮と公正な価格形成という目的との関係で考察すべきこととなる。そうすると、特定商取引法の場合以上に、民事上の効力を否定すべき場面が多いと考えられるのである。

無登録業者による未公開株の勧誘販売に関して言えば、登録制度の趣旨、金融商品取引秩序維持が登録制度によって立っているという実情(及びこれを予定している法令の有り様)、無登録業者が取扱う金融商品の性質(未公開株商法においては日証協公正慣習規則第1号、第2号に反してグリーンシート銘柄でない未公開株式が取扱われている)、無登録業者による違法な営業活動によって公正な価格形成という金商法の目的が著しく阻害されている現状(及び金融商品取引まがい取引を無許可・無登録で行う商法が引き起こしてきた詐欺被害事案の歴史的経緯)からして、無登録で行われる金融商品取引まがい取引についてはその私法上の効力を否定するのが適切である。

  裁判例の中には、無登録営業を禁止する法律の趣旨及びグリーンシート銘柄規制の趣旨から未公開株商法が対価の均衡を欠く詐欺商法であると推認するとするもの(東京地判平成19年11月30日)、無登録営業を禁止する法律の趣旨及びグリーンシート銘柄規制の趣旨から直ちに未公開株商法を公序良俗に反するものとして私法上の違法性を認めるもの(東京地判平成19年12月13日)が見られるようになっている。無登録商法による被害の拡大・再発を防止するにあたり、上記裁判例の指摘するところを真剣に検討し、民事効果を否定することを法律上明確にすべきである。

  なお、金融商品取引法改正案は、法第192条1項の禁止命令又は停止命令の申立て権限を証券取引等監視委員会に委任することとしており、これについてあえて反対を述べるものではないが、従前同法に基づく申立てが行われていなかった実情を顧みると、証券取引等監視委員会への上記申立て権限の委任のみで無登録商法による被害の拡大・再発を防止することができるとも楽観しがたいものであるというほかはなく、併せて上記の民事効に関する規定を改正法案に盛り込むべきである。

4 さらに、金融商品取引法の適用対象でない無登録金融商品取引まがい取引に対して迅速に適切な対応をすることを可能とするためにも、金融商品取引における公正な取引秩序の維持のための横断的な法律(取締法規である業法の枠を超えたもの)及び監督機関(金融商品ごとの縦割り行政の弊害を廃して金融商品取引秩序全体を適切に監督しうる機関)が必要であると考えるから、そのための建設的な議論を進められることを期待する。

第2 外国為替証拠金取引業者の分別管理のあり方について

 1 当研究会は、平成19年12月215日付で御庁に対し、「外国為替証拠金取引業者の証拠金の分別管理に関する意見書」を提出しているところであるが、監督指針改正案においても、その趣旨が適切に汲まれているとは到底いえないから、再度意見を述べる。

 2 店頭外国為替証拠金取引業者には、信託によって顧客の預り資産を管理させることが不可欠である。そして、信託も更新頻度等との関係で証拠金の毀損を生じる可能性を払拭できないから、レバレッジ規制を併せて行う必要がある(現在最高で800倍のレバレッジの設定が可能な取引が存在するようであるが、このような高レバレッジの相対証拠金取引が「正常な金融商品」の範疇にあるとされるのにも抵抗がある。)。自己資本比率規制における「保有する有価証券の価格の変動その他の理由により発生しうる危険に対する額として内閣府令で定めるものの合計額に対する比率」(金融商品取引法46条の6)を検討するに際して、考えられる価格変動の範囲、これによって業者に生じる可能性のある損失の程度、それが業者の財務体質に及ぼす影響の程度に十分な配意がなされるべきことは明らかであり、自己資本比率規制を一律なものとするためにはレバレッジ規制は不可欠である(取引所外国為替証拠金取引、商品先物取引、株式信用取引との均衡から、30倍を限度とするべきである。)。

 3 カバー取引は業者が任意にその計算で行う取引である。それが事実上顧客の取引と関連していたとしても、業者の計算でされる取引であることに変わりはない。カバー取引が顧客の取引と完全に対応している(業者の価格提示・取引執行システムがカバー先の提示価格・取引執行システムとスプレッドを除いて完全に同一であって、カバー取引による業者の損益と業者と顧客の相対取引における顧客の差損益が上記スプレッドを除いて全く同一になる)のであればともかく、そうでなければ、カバー取引に顧客の預り証拠金を用いることは預り証拠金の適切な管理であるとは到底言い難く、業者の分別管理義務に違反する。カバー取引の損失の相殺等に供されるような「口座の区別」には意味がない。カバー取引が金商業等府令第94条第1項により、業者が顧客との取引によって生じうる損失の減少を目的としてする顧客取引と金融指標及び売買の別が同一の取引として抽象的に定義され、監督指針改正案W−3−3−4(1)もカバー取引が業者の裁量によって行われるものであることを前提にしているところからすれば、監督指針改正案によっても、カバー取引を含む自己取引の結果によって顧客の預かり金が毀損される危険性は解消され得ない(極めて高いものであり続ける)ものというほかはない。

第3 結語

   以上のとおりであるから、意見の趣旨記載の施策を採られたい。

以上