「海外商品市場の先物取引の受託に関する法律施行規則」の一部改正に関する意見
経済産業省商務情報政策局商務課 御中
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平成１７年１１月２２日
先物取引被害全国研究会
代表幹事 山 﨑 敏 彦
事務局長 斎 藤 英 樹
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第１ 海外先物取引の規制のあり方
１ はじめに
改正された金融先物取引法の施行を受けて、外国為替証拠金証拠金業者が次々と破綻し、あるいは業種の転換を図っている。それらの業者のなかには、参入規制もなく財務規制もない、換言すれば規制がたいへん甘い海外先物取引の分野に進出し、あるいは今後進出しようとする者が少なくない。そして、実際にも、既に海外先物取引被害の相談や苦情が増加してきている。このままでは、かつて社会問題化した海外先物取引被害が、再び起こることは明らかである。
このような状況の中で、海外市場における商品先物取引の受託に関する法規制のあり方を検討する場合、かつて社会問題化した海外先物取引被害とそれに対する規制の経過を踏まえることが重要である。そこで、施行規則の内容に関するいわば各論的な意見を述べるに先立って、基本的な視点にたった意見を述べることとする。
２ 海外先物被害が生じてきた背景
（１）私設市場における先物取引被害と政府の対応
海外先物取引被害を考える場合、それに先立って生じた私設市場における先物取引被害の問題を避けて通ることはできない。
私設市場の発生は、昭和５０年前後からとされ、当時の通産省も早くからこれを認識していた。すなわち、通産省は、私設市場における金の先物取引についての苦情相談の増加を受けて、昭和５１年１０月１日発行の「消費者ニュース」第２８号に、「金の先物取引の危険性について」との記事を掲載し、私設市場における金の欺瞞的な先物取引商法を紹介し、その危険性に対して警告を発している。
そもそも商品取引所法第８条は、政令指定品目以外の商品についても、商品市場類似施設の開設およびそこでの売買を全面的に禁止したものと解釈されていた（昭和２６年２月７日付法務府法制意見第一局長回答）。そして、その実効性は罰則で担保されていた。ところが政府は、取締りを強化してその実効性を確保しなかったばかりでなく、昭和５５年４月、突如として第８条の解釈を「原則禁止」の立場から、政令指定外商品については適用なしとする「原則自由」の立場に変更してしまった。
こうした、いわば火に油を注ぐような解釈変更に対しては、「これでは『第８条第１項が指定商品以外の商品についても商品市場に類似する施設の開設を禁止している、という従来からの解釈を認めると、国は金のブラックマーケットの取り締まりで商品取引所法の厳格な運用を怠ったことになる。責任を回避するために、あわてて第８条第１項の解釈を変更した』と思われても仕方あるまい」との批判がなされた（投資日報社「商品先物市場」昭和５５年７月号）。
この解釈変更は、被害が金先物取引被害から、プラチナ、そして海外先物取引被害に拡大する契機となっている。したがって、その責任は極めて重いと言うべきである。
政府は、昭和５６年９月、金を商品取引所法第２条第２項の政令指定商品とし、公認市場である東京金取引所を開設する方針を決めた。この措置により、政府の新解釈によっても、ブラックマーケットでの金先物取引は全面的に禁止されることとなった。
しかし、これは何ら根本的な解決にはならなかった。政令指定されていない商品はいくらでもあり、業者が対象商品を白金、パラジウムと切り替えていくのは容易であった。さらに、国内私設市場から海外先物市場への受託業務の切換えを行う業者が登場していた。それらの業者は、海外市場の会員へ取り次ぐと称して、消費者を勧誘した。海外市場としては、香港、ニューヨーク、シカゴ、ロンドン等があるが、当初は香港が圧倒的であった。
（２）通産省の検討と商品取引審議会答申
昭和５６年３月、通産省産業政策局長の諮問機関「商品等の取引問題研究会」は中間報告をまとめ、「海外取引所における取引の勧誘問題」への対応策として、次の２案を提起した。なお、「一般投資家の十全な保護を図りつつ、国内の商品取引に対する規制とのバランスを十分考慮する必要がある」としていた。
（Ａ案）
海外取引所における取引の一般投資家を対象とする勧誘又は受託の禁止
（Ｂ案）
海外取引所における取引を国内で受託する者の許可制及び取引内容、勧誘行為についての規制
これを受けて、通産省は、同年５月に具体的対応策を商品取引審議会に諮問した。同審議会は、翌５７年４月１３日付で答申を取りまとめた（「海外商品取引所における取引の勧誘問題への対応のあり方に係る答申について」）。
この答申は、「昭和５４年秋頃から、国内で一般委託者に対し、海外商品取引所における先物取引を勧誘し、受託等を行う動きが発生した。こうした行為を行う業者の中には、悪質な行為を行う者が多く見られるにもかかわらず、法規制の対象となっておらず、野放しになっているため、一般委託者において被害が多発するに至った。」との認識を示している。
しかし、それにもかかわらず、「施策の基本的方向」としては、「以上の問題に対処するためには、本審議会に併せて諮問がなされている『非上場商品に係る先物市場の開設及び先物取引等の勧誘問題』に対する対応のあり方とともに、現行商品取引所制度との関連にも十分配慮しつつ、広く、商品先物取引一般及びこれに対する規制のあり方という見地から、基本的、総合的な検討を進めていく必要があると考える。しかしながら、上記状況への対応が喫緊の課題となっていることを考えると、現時点において、とりあえず、一般委託者保護の観点から、次のような規制等を行うべく所要の立法措置を講ずることが適当である」として、全面禁止どころか許可制でもなく、極めて不十分な行為規制に後退してしまった。
もっとも、「なお今後、商品先物取引の国際化が進展した場合には、商品先物取引に関する基本的な検討の一環として、現行の商品取引所法体系を基礎としつつ、海外商品市場における先物取引の受託等の事業活動を流通経済の観点から位置づけた体系を検討することが望ましい」と指摘している。
（３）法案とその批判
政府が法案を国会へ提出するにあたってまとめた資料によると、昭和５５年８月から昭和５６年１２月までに通産省および農水省へ相談のあった海外先物取引被害件数は、４０４件（うち香港３４０件）、被害総額は１４億６０９８万円にのぼっており、このうち、昭和５６年１０月から同年１２月までが２３２件（うち香港が１７９件）、被害総額７億５９２５万円と過半数を占め、被害が政令指定以降急激に増加したことが裏付けられている。
上記答申に基づいて、政府は「海外商品先物市場における先物取引の受託等に関する法律案」（いわゆる海外先物取引規制法案）を国会に上程した。
このような動きに対して、昭和５５年３月に大阪弁護士会有志で被害救済と被害の撲滅を目指して結成・活動していた「金先物取引被害問題研究会」は、昭和５７年４月２６日付で「海外商品先物取引規制法案に対する意見」をとりまとめ、厳しく批判している。すなわち、「海外商品先物取引は、一般投資家にとって取引の実情を正確に把握することが国内におけるそれに比して著しく困難であり、しかも被害の実態を見れば、現時点では未だ一般投資家に海外商品先物取引という投資機会を与える経済的必要性も存しない。したがって、まずは一般投資家に対して海外商品先物取引を勧誘し受託することを全面的に禁止するべきである。少なくとも許可制をとって、業者の常態を把握し、開業・更新時に悪質業者をチェックする等の厳重な監督体制がとられなければ、被害防止の実行は望み得ない。国内の商品取引に対する規制とのバランスからいっても事理の当然である」「悪質な海外商品先物取引業者には、多数の被害者を発生させた前述の金地金私設市場関与業者も多数を占めている。本法案のような単なる行為規制だけでは、被害を未然に防止することは到底不可能である」「本法案は、悪質業者に『合法性』の口実を与え、被害を防止できないどころか、さらに拡大させる危険性すらある。悪質業者は、これまで商品先物取引に携わりながら商品取引所法の対象外にあったが、深刻かつ広範な被害を発生させたことから現在各方面からの非難が高まり、本法案が提案されるに至ったものである。しかし、もし本法案が成立すれば、消極的ながらその業務＝海外商品先物取引は法律によって認められたものとなる。悪質業者が『国から公認された』と喧伝し、セールストークを使って一般投資家を勧誘することは容易に予想されるところである。したがって、前述したとおりの不十分な規制方法・内容では、本法案が却って被害を助長する恐れがあると言わざるを得ない」というものである。
また、これより先、日本弁護士連合会は、昭和５６年１０月に「金先物取引被害防止に関する意見書」を取りまとめており、その中で海外先物取引については、「一般投資家に対する海外市場取引の勧誘、受託を禁止すること」を求め、「これまでから商品取引所法第８条違反を避ける目的で香港、ニューヨーク等の海外市場における取引を勧誘する業者が存在したが、金の政令指定商品化にともない国内の公認先物市場に加盟できない多くの金先物取引業者が一斉に海外取引市場での金先物取引にふりかわることが予測される」「既に今年になって海外市場での取引勧誘による被害が急増している事実がある。したがって、この海外取引市場における被害防止策を早急に講ずる必要があるが、一般大衆等しかは複雑な国債経済的要因や外国為替相場のからむ海外市場相場の動きを的確に判断することも不可能であり、また時差の関係から海外取引市場における相場を短時間に握むことするらできないこと、海外市場との間で実際に委託者の委託どおりの注文が指示され、かつ委託証拠金や利益金が送受金されているかについて現在の法体制では何人もチェックすることができないことから、一般投資家を対象とする勧誘および受託を全面的に禁止することにより一般投資家の保護を図るべきである」と指摘していた。
（４）国会質疑等
政府は、国会の答弁においても、業者に対する説明においても、海外先物取引の経済行為という面から見て現在社会的にこれを認知して育成する段階に至っておらず、したがってこの法律は海外先物取引業の認知法ではなく悪質行為（勧誘、受託等）を規制することにより悪徳業者を締めだす実質禁止法の趣旨で立法化されたものと述べている（昭和５７年４月２７日衆議院商工委員会議録、昭和５７年７月６日参議院商工委員会議録）。
国会では、衆議院段階において、政府原案に対しクーリング・オフ条項を追加する旨の修正を加えたうえで可決承認され、同法は昭和５７年７月１６日公布、５８年１月１５日施行となった。そして、その規制対象となる「海外商品先物市場」として香港商品交易所（大豆・砂糖・金）、香港金銀業貿易場（金）の２市場が政令指定された。
（５）先物取引被害全国研究会の発足
こうした情勢の中で、昭和５７年３月２３日に東京金取引所がオープンした。
国内外の先物取引被害はますます深刻化する様相を帯び、先物取引被害の救済と撲滅を目的として、全国の有志弁護士が結集し、東京金取引所の開設の日、当研究会が発足した。
当研究会は、昭和５７年１２月、「意見書・海外商品取引規正法の施行にあたって」を取りまとめ、この法律の基本的問題点として、次のように指摘した。「本法は、海外商品取引所での先物取引に関し、悪質な行為を規制して一般投資家の保護を図るとの目的で提案されたのであるが、その前提において一般投資家を海外商品取引所での先物取引に勧誘し受託することを『原則自由』とする立場に立った上で、勧誘・受託時の悪質行為に限って行為規制をおこなう仕組みになっている。
しかし、本法が真に『委託者の利益の保護を図ることを目的と』している（第１条）のであれば、先物取引のもつ本来的な危険性の他に、海外でのそれにあっては為替相場の変動や商品相場に関する情報が委託者に伝わりにくいことによる危険性が加わることを直視して、海外商品取引は『原則禁止』との態度で臨むべきであった。したがって、行為規制のみを規定する本法は、業者の許可制、さらには海外商品取引の前面規制にむけての過渡的な法律ととらえなければならない」。
３ 摘発で露呈した業者の犯罪行為
法が施行され、昭和５８年４月に通産省は日本貴金属に対し、農林省はプラングットインベストメントジャパンに対し、それぞれ業務停止３ヶ月・１ヶ月の処分を行い、その後も４社に対して行政処分を行った。しかし、その対応は被害の撲滅とは程遠いものであった。
これに対し、刑事摘発は続々と行われ、私設先物取引業者の２件を含め、昭和５７年から昭和６３年までに４６業者に及んだ（当研究会編「先物取引業者刑事摘発資料集・Ⅰ）。その過程で露呈した業界の腐敗は目に余るものであり、起訴事実は全ての事件が詐欺罪である。詐欺の態様は、呑み行為で証拠金等を詐取して費消するものと、向玉で顧客と業者の利害が対立する構造で取り次ぎ、顧客に利益が出ている時は仕切りを引き伸ばすなどし、逆に業者の利益となる時に決済するように仕向けるなどして証拠金等を取り込む形で詐取して費消するものとに大別される。
こうした一連の摘発で、海外先物業界は犯罪集団であるか、少なくとも詐欺グループの温床であったことが明白となったのである。このような組織犯罪の実態は、法務省においても注目するところとなり、法務総合研究所研究部紀要「刑事政策研究」３２号（１９８９年）において、「起訴事例に見る悪徳商法詐欺事犯の実態」としてまとめられている。先物取引事犯についても詳細な検討が加えられ、次のような指摘がなされている。
「以上のとおり、海外先物取引利用の詐欺商法を行う悪徳業者の大きな供給源は国内先物取引業界である。多くの者は、国内先物取引の経験を持ち、これに対する規制が強化された昭和５０年から５５年ころに一部の者が海外市場へ、他の一部は金のブラック業界に逃れ、そして金が指定商品となった５６年前後にこれらの者が更に海外先物取引業界へ流れ込んできているもので、規制が厳しくなければそれを避け、規制の届かないところで詐欺商法を行うというのがこれらの業者の特徴である。」「なお、番号２０（注・株式会社飛鳥）及び番号２２（注・和光株式会社）の業者は、ペーパー商法から海外先物取引業界へ入ったものであるが、これは後述の豊田商事消滅後の悪徳業者の動向を占う上で興味深いものがある。すなわち、後に述べるように、ペーパー商法は『預り金商法』の一種であるから、期限が到来すれば（契約を更改するにしても、いつかは期限が来るし、解約もある。）預かり金は高率の利息を付けた上で顧客に返済しなければならないが、その資金は既に詐欺会社には存在しないのであるから、会社は必ず破綻することが運命づけられている。ところが、先物取引を利用すれば、顧客には取引による損失と思い込ませることができるのであり、そうすれば顧客の損失計算となった金額については、返済請求を受けずに済むのである。これが、ペーパー商法の会社が先物取引を始める理由であり、今後悪徳商法業者の多くはこの業界へ参入してくることが予想される」
このような事態を招いた政府の責任は、真に重い。まして、再びこうした事態を引き起こすようなことは、絶対にあってはならない。
４ 法規制のあり方
以上のような実態が明らかになっている現在、法規制の抜本的見直しを先送りにすることは許されない。上記の日弁連、金先物取引問題研究会、そして当研究会の指摘が正当であったことは、その後の経過を見ればあまりにも明らかである。
そして上記のとおり、商品取引審議会が「なお今後、商品先物取引の国際化が進展した場合には、商品先物取引に関する基本的な検討の一環として、現行の商品取引所法体系を基礎としつつ、海外商品市場における先物取引の受託等の事業活動を流通経済の観点から位置づけた体系を検討することが望ましい」と指摘したのは昭和５７年４月のことである。そこから既に２３年の歳月が経過している。その間、「商品先物取引の国際化」は審議会のたびに強調されてきた。したがって、その際、「商品先物取引に関する基本的な検討の一環として、現行の商品取引所法体系を基礎としつつ、海外商品市場における先物取引の受託等の事業活動を流通経済の観点から位置づけた体系を検討す」べきであったのである。
現に、商品取引所法１９６条３項は、商品取引員の海外市場における先物取引の受託等については特定業務として規制している。参入規制、財務の健全性規制、分離保管規制等の委託者債権の保全措置等は、商品取引員に対する規制と差別し、海外先物取引業者に規制をはずす根拠はまったくない。金融先物取引法のように、市場が国内であるか海外であるかを問わず、同一の規制をかけるべきである。
以上のとおり、今回の施行規則の改正は、単なる応急手当に過ぎず、何ら問題の解決にはならない。商品取引所法を海外市場における商品先物取引や商品オプション取引にも適用することとして、直ちに法改正を行うべきである。その際、これまでのまれに見る被害続発の経緯を考えれば、不招請の勧誘禁止の規定を盛り込むべきことは当然である。
第２ 各論
以上の点に鑑み、少なくとも、以下の点について早急に法律自体の抜本的改正がなされなければならない。
１ 規制の対象とするべき取引
国内市場における商品先物オプション取引については商品取引所法において「先物取引」の一類型として定義されて規制がなされ、国内市場における通貨先物オプション取引については従前から金融先物取引法において「金融先物取引」の一類型として定義されて規制がなされており、海外市場における通貨先物オプション取引についても改正金融先物取引法において、「金融先物取引」の一類型として定義づけられて、規制がなされるに至っている。
しかし、海外市場における商品先物オプション取引については、商品取引所法および海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律（以下、「海外先物取引法」という。）のいずれによっても規制がなされていない。このような状態は、上記のとおり、この種商法が規制の間隙を狙って集中的に行われる性質のものであることからして、法規制のあり方として著しく不適切である。
海外市場における商品先物オプション取引が法令の規制下におかれる必要があることは明らかであり、現行の法体系に照らして、海外先物取引法が規制の対象とする「海外先物取引」の一類型として定義づけを行い、その規制下におくこととするのが適切である。
２ 海外先物取引業者の参入規制
商品取引所法は国内公設の商品取引員について許可制を採用し、金融先物取引法は、国内外の市場で金融先物取引業を行う金融先物取引業者について登録制を採用している。海外先物取引を行う業者についても、主務大臣の行政処分権限、報告徴求権限、立入検査権限を定めるのみでは不十分であり、国内公設の商品取引員と同じく、許可制を採用するべきである。
３ 財産的基盤のない業者の排除
法施行規則改正案（同８条１３号）は、「海外商品先物業者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態にある場合において、顧客の利益を害するおそれがあることを知って」海外先物取引契約の締結・受託を行うことを「不当な行為」として禁止することを予定しているが、このような場合に契約・受託をすることは、取り込み詐欺に他ならないのであって、そのような事態に至る前に、財務健全性を欠く業者を排除しなければならない。
少なくとも国内商品取引におけると同程度の顧客財産の保全制度を整備するべきことはもちろんであるが、これがなされない現状においては、改正金融先物取引法と同程度の、十分な財務健全性を肯定しうる程度の自己資本比率規制等を科すことが不可欠である。
４ 不招請勧誘の禁止
一般消費者に対する海外商品先物取引の周知性は未だ極めて低く、自己の責任で取引を行うに足りる情報の収集・判断が今なお極めて困難な状況にあり、「海外先物取引の経済行為という面から見て現在社会的に認知して育成する段階に至っていない」ことは、政府がその旨の国会答弁を行った昭和５７年時点と何ら変わりはない。
金融先物取引は、そのリスクの程度及び理解困難性、社会的認知度の低さ、取引被害の頻発などから、不招請勧誘が禁止されるに至った。海外先物取引は、そのリスク、理解困難性、情報収集・分析の困難性、社会的認知度の低さなど、いずれも金融先物取引と同程度もしくはよりその傾向が強い取引であり、しかも、今後その取引被害の急増が強く危惧されることは上記のとおりである。
改正金融先物取引法７６条４号と同様、不招請勧誘を禁止することは、絶対に不可欠である。
５ 適合性原則の明定、迷惑勧誘禁止、説明義務
商品取引所法改正法及び同施行規則と同様、適合性原則を法律事項とし、説明義務等についてもその内容・効果を詳細に定めなければならない。法施行規則改正案は、商品取引所法及び同施行規則に比してその内容が極めて貧弱であるとしか言いようがないが、商品取引所法等と同様の改正を行わない合理的理由は見出し難い。
６ 向い玉規制
海外先物取引業者が詐欺罪で検挙され捜査がされる過程で、海外先物取引業者が、売建と買建を同数量建てたり、いわゆる鞘取り取引であると見うる場合に海外取次業者等との間で証拠金の送金を免除され、あるいは（売建買建が独立になされる）通常の委託に比して小額の証拠金を送金するのみでよいとされていたことを利用して、同限月の両建を自己玉として建て、あるいは顧客相互間の建玉及び自己玉を交えて異限月の両建を建てる（いわゆる、スプレッドを建てる）方法により、顧客からの委託金を海外業者に送金せず、自社の経営資金に充てて費消していたことが明らかにされた。
ただでさえ数少ない顧客から金銭等の交付を受けたときには、それを業者の外部に流出させず、顧客の損失をも自社の利益に転化しようとするのがこの種商法が基本的に指向するところであり、このことは、被害が爆発的に起こった私設市場取引、ペーパー商法、海外先物取引、外国為替証拠金取引のいずれもがそれを可能にするよう設計・運営されていたことからも明らかである。
海外先物取引においては、かつてそのような行為がなされていたことからして、自己玉を用い、あるいは（業者外務員の意向に左右される）委託玉同士をつき合わせて売買同数として海外業者に取り次ぐ手法が行われないよう、海外先物取引業者が自己取引を行うことを禁止し、かつ、定期的に業者から海外業者への取次ぎ状況を報告させるなどする必要がある。
７ 両建勧誘規制
法施行規則改正案は、商品取引所法及び同施行規則の両建勧誘規制に準じたものとなっている。しかし、法施行規則改正案８条６号、同１１号の括弧書き（これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいう）は、両建の定義として誤っている。両建取引は、損失を固定する効用を有するとしても、損失を「減少させる」効用を持つものではない。それとともに、上記規定にいう「これらの取引」とは、既存の建玉を意味するものであるところ、両建は、既存建玉の損失を減少させるものではなく、既存建玉の損失を「対当する取引」によって生じ得る利益で相殺しようとするものに過ぎないのであるから、前記の括弧書きは、両建の定義としては不当と言わざるを得ない。
上記括弧書きの趣旨が、限月を異ならせる反対建玉を保有して行う、等の、いわゆる「鞘取り取引」を除外しようとするものであるならば、端的にその旨記載するべきである。
第３ 結語
いわゆる外国為替証拠金取引被害は、金融先物取引法改正法の施行及び、これを受けた金融庁、各財務局による求報告、行政処分等により、急速に終焉に向っている。今後、外国為替証拠金取引業界から、未公開株取引、証券金融まがい取引（いわゆるニッパチ商法）とともに、海外先物取引業に参入しようとする者が加速的に増えることが危惧される。
外国為替証拠金取引被害は、その規制が後追いとなったために、現在、連日のように業者が倒産しているが、破産配当が全く無い業者がほとんどであり、多くの被害者が泣き寝入りを強いられている現状に思いを致し、行政としては二度とその轍を踏まない措置を事前に講じるべきは明らかというべきである。
そのような現状において、今回の法施行規則改正案程度の対処で監督官庁としての責任を果たすことができると考えているのであれば、危機意識が欠如しているとの非難は免れ難い。将来的に海外先物取引を投資サービスの１つとして投資サービス法による規制に服せしめるか否かはともかく、現在の監督官庁として、今回の法施行規則改正案は、この種商法の監督官庁としての責任を果たすものとは到底見ることができない。再度、現状及び今後の被害動向を正しく理解され、抜本的な法改正を真摯に検討されることを強く期待する。
以上