金融先物取引業者向けの総合的な監督指針(案) についての意見

金融庁監督局証券課 御中
FAX03−3506−6117

                 平成17年6月13日

  先物取引被害全国研究会
代表幹事  山 ア 敏 彦
事務局長  斎 藤 英 樹
  (事務所 〒530-0047 大阪市北区西天満2丁目3番6号
           大阪法曹ビル402号 山ア敏彦法律事務所
TEL 06−6365−8565
FAX 06−6365−8539

1 はじめに
 当研究会は、長年、先物取引被害救済に取り組んできた全国の弁護士有志による研究会である。当研究会がこれまで取り組んできた「先物取引」の被害は、商品先物取引に関するものが大半であり、金融先物取引に関するものは、海外市場における通貨先物オプション取引の仲介を行うと称する特定の業者による被害を除いては、ほとんどなかった。金融先物取引市場は、機関投資家によって構成された、あるべきプロ市場であったといってよい。
 ところが、実質的な金融先物取引である「外国為替証拠金取引」による被害が、ここ数年、急激に増加した。
 当研究会所属の護士も、現実に多くの相談を受け、訴訟を提起するなどして被害の救済に取り組んできた。こうした経験をもとに、当研究会は平成15年12月24付「外国為替証拠金取引被害に対する意見書」で、外国為替証拠金取引を一般消費者が行うこと自体を禁止することを求め、仮にこれを許容するとしても一般消費者に対し勧誘することを禁止するよう求める意見書を提出し、平成16年1月には「金融商品の販売等に関する法律施行令改正についての意見書」を、本年5月2日には「金融先物取引法の改正に伴う政令改正についての意見」を、5月12日には「金融先物取引法の一部を改正する法律の施行に伴う関係府省令の整備等に関する府令(案)についての意見」を提出するなど、今般の金融先物取引法の改正について、重大な関心をもって見守ってきた。
 金融先物取引法の改正及び政令・省令の改正においては、外国為替証拠金取引自体の全面禁止はされなかったものの、一般消費者に対する不招請の電話・訪問勧誘を全面的に禁止し、また両建勧誘についても全面的に禁止するなど、踏み込んだ規制がなされており、外国為替証拠金取引被害の減少に寄与するものと期待している。
今回、パブリックコメントの対象とされている金融先物取引業者向けの総合的な監督指針(案)は、上記の法令に基づく御庁の監督について現実の運用指針となるものであり、被害の根絶に極めて重要な意義を有するものであって、上記法令の趣旨を全うしうるものでなければならない。
このような観点から、当研究会として、監督指針案に対して、以下のとおり意見を述べる。

2 総論
 本監督指針は、@無登録業者の絶対的排除、A悪質登録業者に対する速やかな行政処分を目指すものであり、消費者被害の根絶に努力してきた当研究会からみても、有効な内容を多く含むものであって高く評価する。この監督指針にしたがった監督行政が迅速・的確になされることにより、被害根絶がなされることを期待する。
 委託者保護の実現のためには、本監督指針の現実の運用如何が成否の鍵といえ、運用にあたっては、ホームページその他で、ひろく苦情・被害の情報収集を行い、これに基づき、法85条の検査権限を最大限に活用したうえで、法86条、87条により、厳正に行政処分を行い、必要に応じて適宜・適切な刑事告発を行うよう要望するものである。

3 各論
T−1−2 金融先物取引業者の情報の積極的な収集
同(2)において、具体的な情報収集について、金融先物取引業者との意見交換をするものとされているが、これのみでは情報収集の方法として十分でない。金融先物取引事故に日常的に接している弁護士等との意見交換等によって、取引事故の実態、態様、その変化等について、積極的に情報を収集するよう努める必要があり、その旨明記するべきである。

U−3−2 金融先物事故等に対する監督上の対応
 金融先物事故等の定義について「C その他委託者の保護を害し又は害するおそれのある行為」を加えるべきである。これは、法の究極の目的が、委託者保護に資することにあることから、当然である。

U−3−6 適合性原則
 法は、不招請勧誘を禁止し、適合性原則を明記している。これは、社会問題化している外国為替証拠金取引が、一般消費者には原則として向かないものであることを前提にしているものと理解される。
 現実の被害は、為替取引の知識・経験を欠く主婦や高齢者などに対する違法勧誘に端を発するものが多く、これら不適格者に対する違法勧誘を防止するため、より明確な適合性原則の基準を設定し、監督指針として明記すべきである。
 具体的には、以下のような「適合性を有しない者」の例を指針に明記すべきである。
@ 常に適合性を有しない者
・失っても今後の生活に支障がない余裕資金が500万円以下の者(なお、老後の生活資金、学費その他使途が定まっている資金は余裕資金には含まれない。)
A 金融先物取引に関する専門知識を有していることが、客観的に確認されるなどの特段の事情のない限り、適合性を有しないと考えられる者(なお、ここでいう金融先物取引に関する専門知識とは、金融機関の資産運用・為替取引部門に5年以上勤務していた者と同等の知識を有すると客観的に認められる者をいう。)
・過去3年間の年収の平均が500万円以下の者
・年金生活者
・60歳以上の高齢者
・主婦
・元本保証のない投資の経験がない者
 なお、取引中に上記の条件を満たすようになった場合も適合性原則違反となる。

U−3−7 不招請勧誘の禁止
不招請勧誘の禁止の徹底は、現在の外国為替証拠金被害を終焉させ、金融先物取引を、適格者による健全な取引とするための不可欠の前提である。そのため、「顧客からの招請状況等の把握」は極めて重要であり、顧客カードの整備だけでは不十分である。商品先物取引においては、顧客カードの杜撰な作成が常態化しており、社内管理部門の審査も、適正な審査がなされているとは到底言い難い状況にある。
したがって、真に顧客が招請した取引であるかを検証するためには、日常の監督事務・事故報告をヒアリングするにとどまらず、事故防止のための最も効果的な検証方法として、顧客からの電話内容、顧客との面談状況を録音するよう指導すべきである。

U−3−8 広告規制及び契約締結前の書面の交付等について
 現在、外国為替証拠金取引の広告は、外貨預金と混同させるようなもの、特にスワップ金利が付くことのみを強調し、逆に支払うことがある旨を表示しないケースが散見される。具体的には、「年利○○%の高金利!」などという表示をする広告も珍しくない。
 また、契約書面等に、スワップポイントが何を基準にして、どのように設定されているのかについては、ほとんどの業者において明示がなく、極めて恣意的な数値となっている実態がある。
 さらに、証拠金・追加証拠金の計算方法は、外国為替証拠金取引の商品内容として最も重要なものであるが、これが全く記載されていない契約書も多い。
 この点、@ハ、Aロ、Bニ、Bホ等の監督指針を厳格に適用し、この種の欺瞞的広告・説明をする業者については金融先物業者たりうる資格がないものとして、速やかに厳しい行政処分を行うべきである。

U−3−9 顧客を集めての勧誘
 セミナー等を案内するチラシ自体が法68条の要件を満たしていないものはもちろん、一部に小さな字で法68条の要件を満たす記載があったとしても、「セミナー」「学習会」「講演会」などの名目を強調し、消費者が、その場において、金融商品について勧誘を受けるものと予期しにくいチラシ等による勧誘で、当該セミナー等に出席した場合には、当該消費者は、勧誘を「招請」したわけではない。不招請勧誘が禁止されるのは、不意打ち的な勧誘により、自由な判断が妨げられる点にあるが、勧誘を予想していない場所で、勧誘することは不意打ちという点では、不招請勧誘に該当するし、むしろ、業者のテリトリーに入ってしまい、@さくらを使った催眠商法的手法や、A荷物を預かってその場から容易に立ち去れないようにする手法、B多数の外務員で消費者を囲んで勧誘する手法など、単なる、訪問・電話による不招請勧誘よりも一層悪質なケースが容易に予想されるのであり、自由な判断をゆがめる危険性は高い。したがって、このような勧誘は法76条4号に該当する可能性が高いことを明記すべきである。

U−3−10 顧客に対する説明責任の履行等
 U−3−8でも触れたとおり、欺瞞的な説明(特に安定的な外貨預金類似の商品であるとの説明をする業者)については、厳しい行政処分を行うべきである。
 なお、同(1)C記載の、いわゆる両建て勧誘の禁止について、委託者等が自らの意思に基づいて行うことができる旨の説明書等の記載を認めることは、両建て取引の「勧誘」禁止の潜脱につながる可能性が強い。値洗損が生じた場合の対処方法として、複数の選択肢のうちの1つとして両建て取引を提示することを認めるとすれば、委託者等の自らの意思に基づく両建て取引の選択と、両建て取引の勧誘との線引きを困難にし、両建て取引の勧誘禁止を実効性のないものにしかねない。少なくとも、顧客から積極的に両建て取引を行いたい旨の意思があってはじめて、両建て取引を行うことができる旨告げることが許されるものとするべきである。
そして、委託者等が自らの意思で積極的に両建て取引を行う場合にも、同ロ記載の事実に言及させる必要がある。なお、同ロには、「スワップポイントにより逆ざやが生じるおそれがあること」に言及させるとされているが、スワップポイントにもスプレッドが設けられているのが通例であること、通貨等の価格差について委託者が二重に負担することとなることに言及させることとされていることとの均衡から、端的に、「スワップポイントの差について委託者が負担することとなること」に言及させるものとするべきである。また、両建て取引のデメリットとして、「固定された損失を減少させるためには、より複雑な投資判断を要することになり、損失を現実化させて取引を結了させる場合に比して、より大きな損失を生じる可能性が大きい取引であること」に言及させるべきである。さらに、「経済的合理性を欠くおそれがある取引」との表現も適切ではない。「両建て取引は、既存の取引から生じた損失を一時的に固定することができるのみであり、その必要性がある特別の事情がない限り経済的合理性を欠く取引である」旨に言及させるべきである。
当研究会としては、両建て取引は、本来は、その経済的合理性の欠如と、悪用による被害の取引被害深刻化の顕著な契機となっているという現状に照らし、全面的に禁止されるべきであると考える。万一、両建て取引を行うこと自体を禁止しないときにも、一般消費者を主とする一般投資家が両建て取引を自ら積極的に考案して行うことは考えられず、両建取引が行われていることは、特段の事情がないかぎり金融先物業者が「勧誘」したものであることを前提に、本監督指針を厳格に運用していくことを要望する。
  なお、同(1)Bについては、スワップポイントの恣意的な決定を排除するため、提示、保存するべきとされている数値等に、スワップポイントを含むこととし、その旨明示するべきである。

U−3−11 顧客情報の管理
 安全管理に関するチェックは当然のことであるが、「顧客又はその代理人弁護士からの自己の取引経過について開示を求められた場合に適切な対応をしているか」もチェック項目として追加すべきである。
 金融庁においては、既に消費者金融行政において、取引経過開示への協力義務を定めており、これは有効に機能している。金融先物取引業者は、コンピュータにより取引経過を管理しており、容易にこれをプリントアウトして交付可能なのであって、顧客からの求めに応じて、ただちに建玉の経過や証拠金の推移に関する経過を明らかにすべきことは当然である。
 この点、個人情報保護法25条は保有個人データに関する開示義務を定めており、金融先物取引の取引経過が保有個人データに該当することはいうまでもなく、この意味でも、当然に開示すべきものである。

V−1−1 一般的な監督事務
 同(4)として、無登録で金融先物取引業を行っている者の実態把握等を定め、この中で、「一般投資家からの苦情」「消費者センターへの照会」等があげられていることは評価する。現実の運用にあたっては、金融庁自身が、ひろくホームページや電話による苦情受付を行い、被害実態に対する迅速な対応を心がけるべきである。
 また、無登録業者の排除に限定せず、登録業者を含めた問題業者の把握のため、以下のとおり、項目を設け、情報収集を行うべきである。
「(5) 金融先物取引業者の営業実態に関する情報収集
 金融庁のホームページ及び専用電話回線等により、一般投資家等からの苦情、国民生活センター及び各地消費者センターからの情報提供をひろく受け付け、また、無登録業者等の情報に接する機会が多い弁護士等との情報交換等を通じて、違法不当な広告・勧誘・説明等を行っている登録業者に関する情報収集に努める。」

V−1−4 自主規制機関との連携
「自主規制機関が法に定められた目的を達成するための方策についても、意見交換を行うものとする。」とあるが、法108条のあっせんの手続においては、その活動が委託者等保護のために十分な実効性を持つものであることが必要である。 また、あっせん事案から汲み取れる業者や取引自体の問題点について、あっせん委員の意見を徴求するなどして、より改善をはかっていく手段を講じるべきである。

V−2−1 登録
法59条1項13号は、金融先物取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を有することを登録の要件としている。
同(5)「体制審査の項目等」では、苦情・トラブル処理の体制整備が可能な要員確保が図られているかを確認するものとされているが、附則第2条の規定により、引き続き店頭金融先物取引業務を行っている者については、どの程度の苦情件数があるか、それがどのような苦情処理を行っているかを、登録にあたって審査するべきである。
同(4)登録申請書の添付書類に、「苦情処理体制について記載した書面に、代表的な事例の概要及び申請者のとった対応及び対応結果について記載させる」ものとされているが、代表的な事例のみでなく、店頭金融先物取引業務を行っている場合には、現在どの程度の苦情件数があるか、過去どの程度の苦情件数があり、どのように処理してきたか否かをチェックしなければ、不適格な業者の参入が排除できない。苦情申し出が多数あるということは、金融先物取引業を適確に遂行するに足りる人的構成を欠如することの端的な徴表であり、審査項目に含めて十分な審査をすることが不可欠である。
以上