金融先物取引法の一部を改正する法律の施行に伴う関係府省令の整備等に関する府令(案)についての意見



平成17年5月12日
金融庁総務企画局市場課   御中
FAX03−3506−6251

金融先物取引法の一部を改正する法
律の施行に伴う関係府省令の整備等
に関する府令(案)についての意見

 
先物取引被害全国研究会
代表幹事  津 谷  裕 貴
事務局長  山 崎  省 吾
       (事務所 〒010-0976秋田市八橋南2丁目10番16号
              秋田県JAビル8階津谷裕貴法律事務所
             TEL 018-864-2255 FAX 018-864-2268)

はじめに
 当研究会は、長年、先物取引被害救済に取り組んできた全国の弁護士有志による研究会であり、訴訟を中心とした司法は勿論のこと、商品取引所法改正などの立法、先物行政のあり方などについても積極的に取組み、一定の成果を挙げてきた。
 当研究会がこれまで取り組んできた先物取引は、商品先物取引が大半で、金融先物取引は少なかった。これは、商品先物市場の9割が先物取引の知識経験もない一般委託者であって、これらのほとんどが業者からの強引な電話、訪問勧誘などいわゆる客殺しによって財産を収奪され、商品先物取引の実態は先物取引という名の下の不法行為に他ならず、先物取引は消費者問題であるとの認識を持ったからである。これに対して、金融先物取引は、機関投資家中心、プロ市場であって、一般委託者の割合は極めて少なく、金融先物取引における消費者被害もエーシーイーインターナショナルをはじめごくわずかであった。
 先物取引といっても、商品取引所法下の商品先物は被害が多発し極めて問題のある世界であるのに対して、金融先物取引法下の金融先物は被害がほとんど無く比較的あるべき世界に近かったといっていい。
 ところが、ここ数年「外国為替証拠金取引」による被害が多発した。当研究会所属の護士も、現実に多くの相談を受け、訴訟を提起するなどして被害の救済に取り組み、こうした経験をもとに、当研究会は平成15年12月24付「外国為替証拠金取引被害に対する意見書」で、外国為替証拠金取引を一般消費者が行うこと自体を禁止することを求め、仮にこれを許容するとしても一般消費者に対し勧誘することを禁止するよう求める意見書を提出した。
 今回の金融先物取引法の改正及び政令・省令の改正においては、外国為替証拠金取引自体の全面禁止はされなかったものの、一般消費者に対する不招請の電話・訪問勧誘を全面的に禁止し、また両建についても全面的に禁止するなど、踏み込んだ規制がなされており、外国為替証拠金取引被害の減少に寄与するものと期待しているが、それでも今般の金融商品取引所法施行規則の改正案には、いまだ不十分な点がある。
 また、これまで機関投資家中心、一般委託者には無縁だった金融先物取引法の金融先物取引(取引所金融先物取引)に、外国為替証拠金取引が同法の適用を受けることによって、金融先物取引法の世界に一般委託者が入り込む道を開いたことになる。そして、これまで委託証拠金は高額に設定され、安易に一般委託者が金融先物取引を行うことができないようになっていたが、これが徐々に引き下げられ、商品先物取引並みになると、一般委託者が金融先物取引にも入ってくることが予想される。これまでの金融先物取引法及び同法に関する政省令は、そもそも一般委託者を前提にはしておらず、これを保護するという視点が不足しており、これが今回の府令案についても当てはまると言わなければならない。この点、皮肉にも、商品取引所法分野では、当初から一般委託者を前提にしていたので、先般の商品取引所法改正においても、改正法で不招請勧誘を見送ったという重大な欠陥を有するものの、適合性原則、不当勧誘、説明義務など委託者保護の重要な事項については主務省がガイドラインを制定し、省令の禁止事項なども細かく規定しており、この中には金融先物取引についても、参考になるものがある。特に、省令事項は、委託者保護のためにきめ細かく規定することができ、重要な位置づけをされるべきである。
 以下、具体的に今回の府令案について意見を述べることとする。

府令案について
第1 広告における表示方法(法68条、規則17条の2関係)
 1 改正案では、「法68条各号に掲げる事項を明瞭かつ正確に表示しなけ  ればならない。」となっているが、更にこれを具体的に、「広告の冒頭に、  法68条3号、4号の事項のみを独立して、枠で囲み、14ポイント以上  かつ赤色の活字で明示すべきである」と変更すべきである。
 2(理由)
 外国為替証拠金取引の被害者の多くが、証拠金取引であることや数日のうちに全ての資産がなくなる危険性があることを理解せずに取引を開始している。その原因は、第1に外務員がセールストークにおいてこれを説明しないことにあるが、書面においても、この点が明瞭に記載されていない点も原因の1つである。
 契約締結前に交付する書面(法70条、規則19条)において、この点を強調することも重要であるが、広告(文書及びインターネットが主となると思われる。)においても、この点を強調しておく必要性も高い。
 今般の法改正では、金融先物取引は、不招請勧誘が禁止されるとともに、適合性原則が導入され、資産・知識・経験を有する習熟した投機家のみが参加すべき方向での改正であり、いわばプロの市場を目指すものである。逆に言えば、資産・知識・経験のない者は極力排除すべきであり、広告段階で、このような表示しておくことはぜひとも必要である。かかるリスクを十分に認識したうえで参入する投機家のみのプロ市場にすべきである。委託者保護にとっても、最も重要なことであり、他の事項と区別し、必ず、独立して、なおかつ最初に、わくで囲んで、明瞭に記載すべきことを定める必要がある。

第2 誇大広告をしてはならない事項(法69条、規則18条関係)
 1 法69条の誇大広告をしてはならない事項として、「金融先物取引に係  る利益を得る可能性に関する事項」を追加すべきである。
 2 理由
   金融先物取引による利益を得る可能性は低く、とりわけ一般委託者にと  っては大半が損失を被っているのが実態である。
   あたかも金融先物取引で利益を得られるかのような広告は、「著しく事  実に反する誇大広告」である。

第3 契約締結前に交付する書面の内容(法70条、規則19条関係)
1 書面に記載すべき事項
 当研究会の政令に関する意見(法68条、施行令13条関係)でも指摘したとおり、以下の事項を記載すべきである。
(1)規則19条ロの文言について
 規則19条ロは「顧客が行う金融先物取引について、通貨等の価格又は金融指標の数値の変動により損失が生ずることとなるおそれがあり、かつ、短期間のうち、当該損失の額が委託証拠金その他の保証金の額を上回ることとなるおそれがある旨及び保証金に不足する損失額については追加で徴収される旨」と記載すべきである。
(理由)顧客にとって、単に損失が大きくなるという点だけではなく、短期間のうちに追加資金が必要になるという証拠金取引・差金決済取引の最大の特徴を認識することは、非常に重要である。
(2)法73条の事項を記載すべきである。
(理由)取引態様の明示義務は、法73条でも定められており、当然、契約前交付書面にも記載すべきである。
(3)「顧客に対して金融先物取引業者が自らその相手方となって当該金融先物取引を成立させる場合に通貨等の売り付け及び買い付けの価格は当該金融先物取引業者が独自に定めるものであること」及び「通貨等の売り付け及び買い付けの価格の決定方法」を記載すべきである。
(理由)相対取引においては、外貨の売買の価格は、業者が自由に決めることができるものである。手数料は無料と称し、売買の利ざやを大きく取るとか、あるいは、各種の発表レートの中から業者に有利なものを採用する虞もあることから、売買価格は、そもそも各業者が自由に定めうるものであることを明示すべきである。その上で、当該業者の場合は、具体的にどのようなレートを採用し、どのようなルールに基づいて、顧客が実際に売買する際のレートが定められるのかを明示すべきである。
(4)「顧客が行う金融先物取引において差金決済による差損益以外に授受される金利又はこれに準ずる金銭がある場合には以下の事項
@ 利率(利率の計算のもととなる元本について明示したうえで表示すること。変動する場合には契約時点の利率を明示するとともに、どのような指標に基づいて変動するかを明示すること)
A 授受の方法
B 対当する取引において利率が異なる場合はその旨及び金利差の決定方法
C 顧客が金融先物取引業者に対して、金利又はこれに準ずる金銭を支払う場合にはその旨を@ないしBよりも大きな文字で表示すること」
を記載すべきである。
(理由)
 外国為替証拠金取引においては、「スワップ金利」と称する金員のやりとりがなされている。これは、本来、実際に、ドル・円の現金を資金調達したと仮定した場合の二国間の金利差に基づいて課されると言われている。このような二国間の金利差を日々解消するために1日分の金利差相当額のやりとりがなされるという構造は、一般市民の営む生活においては、全くなじみのないものであり、非常にわかりにくい。しかも、現在、巷で行われている外国為替証拠金取引におけるスワップ金利の利率は、前記の構造からはかけはなれたものも多く、本来の二国間の金利差に基づく金利裁定をベースにしたものというよりも、単に高金利を装って消費者を勧誘する手段として用いられている疑いが強い
 以上の点から、スワップ金利に関する事項として以下の事実を契約書面に明示すべきである。
 第1に、スワップ金利の利率は、商品の内容そのものであり、これを正確に記載すべきことは当然のことである。
 第2に、前述したような不透明かつ不公正なスワップ金利の授受を排除するため、どのような指標に基づいて金利を設定していのかを明示すべきである。
 第3に、売の場合と、買の場合が異なるのであれば、それぞれの金利を表示し、利率及び金利差の決定のルールを明示すべきである。特にマイナスの金利が発生する場合には、その旨を、プラスの金利についてよりも大きく、わかりやすく表示することを義務付けるべきである。少なくとも、我が国の一般市民にとって、自分が預けている資金から「金利が引かれる」という事態は容易には理解しがたいものであり、その点を強調する必要性は高い。
 実際に、現在、被害が多発している外国為替証拠金取引においては、金利の明示がないものや、買の場合に金利が加算されることを強調する一方で、売の場合に金利が減算されることを全く記載しない広告や契約書面が多くみられ、これに惑わされて「外貨預金のようなもの」と誤解している被害者も非常に多い。
 実際の被害事例でも証拠金との関係で「年利8.33%の高利回り!!」などと広告に大きく表示している一方で、売の場合にスワップ金利がマイナスされることは記載されていないというケースがあった。しかも、このケースでは、売の場合には「−108.33%」(証拠金との関係)でスワップ金利を徴収していた。このようなケースをみるかぎり、スワップ金利が実際の二国間の金利差に基づく金利裁定を基礎としているとは到底思えず、顧客からの金銭搾取手段という印象を強く受けざるを得ない。
 ※ このスワップ金利の問題一つをとっても、「店頭金融先物取引」などという不透明な取引を認めるべきではないという思いを強くする。法改正後も被害が続くようであれば、店頭金融先物取引を禁止し、取引所金融先物取引に一本化するとともに、刑事罰などをふくめたより実効的な規制を検討すべきである。
(5) 取引当事者の立場と利益相反性の明示
A「店頭先物取引においては顧客と業者の利益が相反する旨及び外務員の助言に依存して取引すべきではなく自己の判断によって取引すべき旨」
または
B「自己が相手方となって当該取引を成立させる取引を内容とする場合には、委託者等と利害が相反する旨及び外務員の助言に依存して取引すべきではなく自己の判断によって取引すべき旨」
(理由)
 自己が相手方となって取引をする場合(俗に、「プリンシパル型」などという。)には、顧客と委託者の関係は極めて鋭い利害相反が生じる。また、別の業者に取次ぐ場合(俗に、「IB型」などという。)であっても、取次ぎ先がダミー会社としか思われない新設の小規模法人であり、そこから手数料が還流していると思われる。したがって、店頭金融先物取引については、利益相反取引である旨を明示すべきである。なお、相対取引であることを示しても、それが業者と顧客の利益が反することになるとただちに認識できないこともあるので、この点、より直截的な説明とすべきである。
 利益相反取引において金融先物取引業者の外務員の助言を受けて取引をすれば、外務員が、当該金融先物取引業者の利益を図り、顧客の利益を害することは明らかである。よって、この点を明記すべきである。
(6)相談先の明示
「相談窓口として、国民生活センター、当該委託者の住所地の地方公共団体の消費者相談窓口」、各地の弁護士会、日本司法支援センター(平成18年10月業務開始予定)を入れるべきである。
(理由)
 この種の被害において、当該業者の管理部などが苦情申出先として明記されていることが多いが、仮に、不法行為が行われている場合に、当該業者の管理部などに苦情を申し出ても、海千山千の管理部担当者が、「当社には全く落ち度はない。」などとつっぱね、しつこい顧客には「裁判をしたければどうぞ。裁判になると弁護士費用などが莫大にかかるだけですよ。うちは裁判では負けたことがないです。」などと言って、諦めさせるか、せいぜい被害総額からすればごくわずかな示談金などで和解をさせ、かえって被害救済に障害となっている。このような経験は、この種被害を扱う弁護士が日常的に経験していることである。
 また、取引開始直後に、書面を読んで「聞いていたのと違うようだ。」などと疑問を持った消費者が、その時点で、ただちに公的窓口に電話できれば被害は最小限で食い止められる。ところが、こういった公的窓口がないと、結局、当該業者の外務員に電話して「よくわからないので、やっぱりやめたいのですが」などと聞いても、さらなるセールストークで丸め込まれて、結局、取引を継続してしまうのがオチである。
 適切な助言が可能なのは、中立公正な第三者機関である国民生活センター(独立行政法人国民生活センター法)や各自治体の消費者相談窓口(消費者基本法及び各自治体の消費生活条例等)である。ここ数年の被害実態及び外国為替証拠金取引の高度の危険性に鑑みれば、消費者がただちに相談しうる公的な相談窓口を書面に記載しておくことはぜひとも必要である。
2 特に強調して明示すべき事項(規則19条3項)
 規則19条3項は、冒頭にわくで囲む事項をあげているが、前記第1でも指摘したとおり、最も重要なのは、短期間のうちに預託した金員以上の損失が生じる極めて危険な取引であるという点である(規則19条1項イ及びロ)。
 したがって、他の記載事項と区別して特に強調すべきものとしては、むしろ、規則19条1項イとロに限定し、その他の記載は、重要事項ではあるが、その程度は一ランク下がるものと考えられる。そして、そのほうがリスクの枢要部分である19条イとロを際立たせることとなり、リスクの理解に資すると考えられる。
 したがって、規則19条3項を以下のように規定すべきである。
(19条3項)
  法70条第1項に規定する書面には、第1項4号イ及びロに規定する事項について、わくの中に記載し、14ポイント以上の赤色の活字で、かつ最初に、わかりやすく記載しなければならない。
  また、以下の事項については、これとは別に、わくの中に記載しなければならない。
一 (略)
二 第一項第四号ハ、ニに掲げる事項
三 金融先物取引業者、カバー取引相手方又は媒介等相手方の信用状況によっては損失を被る危険がある旨

第4 帳簿の保存と開示について(法71条、72条、法78条、規則26条)
 規則26条6項として、以下の内容を追加すべきである。
「金融先物取引にかかる事故による損害賠償請求又はその準備に必要であるとして、顧客又はその顧客の代理人弁護士から、当該顧客に関する第1項の帳簿、金融先物取引業者の自己玉の状況を示す帳簿及びカバー取引の内容を示す帳簿について開示を求められた場合には、該当する帳簿を、速やかに開示しなければならない。」
規則26条7項として、以下の内容を追加すべきである。
「個々の顧客にかかる第1項の帳簿は、当該顧客との取引が終了してから10年間これを保存しなければならない。」
 外国為替証拠金取引の被害者は、法71条、72条の書面を受領しても保存していないケースが多い。特に、取引の仕組や危険性を理解していない高齢者や主婦ほど、これらの書面の意味や重要性がわからず、紛失、破棄していることが多い。店頭金融先物取引は、いわば私設の為替市場を公認するものであり、取引の公正や透明性の確保が強く求められるものである。したがって、取引の公正に疑義が生じた場合には、金融先物取引業者においてこれを払拭すべきことは当然である。また、個人情報保護法25条との関係でも、開示義務は当然に認められるはずであるし、コンピュータで管理している以上、検索・抽出・開示はそれほどの負担にはならない。
 以上から、開示及び10年間の保存を義務付けるべきである。

第5 金融先物取引業者の資産について
1 金融先物取引責任準備金(法81条、規則29条、法59条1項3号、規則13条の2第1項1号関連)
 法81条の金融先物取引責任準備金については、規則29条が規定している。また、金融先物取引責任準備金の額は法59条1項3号の純資産額の計算の際に控除される(規則13条の2第1項1号)。
 ところで、規則29条の各号は、取引所金融先物取引に関するものだけであり、この規制からすると、店頭金融先物取引のみを行っている金融先物取引業者については、この準備金の積み立てが必要ないことになる。
 しかしながら、現在、被害が多発している外国為替証拠金取引は、改正法のもとでは「店頭金融先物取引」に該当することになる(法2条4項1号)。今般の改正は、被害の多発を受けての改正のはずであるが、まさに、被害者の損害の填補にあてるための責任準備金を、店頭金融先物取引を行う業者が積み立てなくてよいというのは本末転倒である。
2 自己資本規制比率の件(法82条)
 法82条の自己資本規制比率については、今回の規則案に入っていない。
 すなわち、法82条1項で内閣府令に委任されている「資本、準備金その他の内閣府令で定めるものの額の合計額」「固定資産その他の内閣府令で定めるものの額の合計額」「その行っている金融先物取引の当該金融先物取引に係る通貨等又は金融指標の数値の変動その他の理由により発生しうる危険に対応する額として内閣府令で定めるものの合計額」については、別途、規則を制定するとのことであり、これがパブリックコメントに付されるか否かも定まっていない。
 この点、前記1の指摘をふまえ、自己資本規制比率の計算の前提となる上記各事項について、委託者保護に欠けることのない内容とすることを強く求める。

第6 禁止行為(法76条第9号、77条、規則25条、25条の2関係)
1 両建の禁止
 今般のパブリックコメントに際しての「概要」において「両建て取引の勧誘を禁止することとする。」とされており、両建の勧誘は全面的に禁止したものと理解している。
 他方、規則25条6号の表現は、「同時に勧誘する行為」と表現されており、いわゆる同時両建(売と買の注文を同時に行う場合)に限定されているとの誤解を招きかねないと思われる。
 したがって、この表記を「〜 これに準ずる取引と対当する取引をともに保有している状態となる取引を勧誘する行為」と改めるべきである。
 なお、原案のとおりの表現にする場合には、金融庁としてホームページなどを利用して、上記の趣旨を徹底させるべきである。
2 無敷・薄敷の禁止
 契約で定められた証拠金に不足する状態での建玉を全面的に禁止すべきである(規則25条の2に追加すべき)。このような取引は、商品取引では「無敷・薄敷」などと呼ばれていが、結局、顧客の資力を無視した建玉をすることにほからなない。
 実際にも、証拠金不足の顧客に対して「ここで頑張らなければダメですよ。すぐに取り戻せます。私が上にかけあって、10日間待ってあげますから、その間に、なんとか用意してください。」などと言って、本来であれば取引から退場すべき薄資者から、さらに追加の証拠金入金を求めるケースがみられる。このようなことを許容すると、借金をして入金するなどの弊害とともに、外務員に負い目を感じて、さらに顧客操縦がなされるなど、弊害は著しい。
 本来、この取引は、余裕資金で行うべきなのであって、証拠金を入金できないものは、ただちに取引をやめるべきであり、それが委託者保護に沿う。
3 勧誘の要請をしていない一般顧客に対し、フアックス、電子メールなどによる方法で受託契約等の勧誘をすること。
 法76条4号には、要請を受けない訪問又は電話勧誘を禁止しているが、不招請勧誘による方法は、訪問、電話だけでなく、フアックス、電子メールなどによる方法もあり、これらの方法による勧誘の弊害は現に存在するから、これらは省令でも禁止すべきである。
4 向玉
 商品先物取引では、向玉は、客殺しの温床といわれており、商品取引所法施行規則103条2号ではっきりと禁止されている。現在のところ金融先物取引では、同様な弊害は指摘されていないが、商品取引員が金融先物取引に進出するさいにはこのような弊害が予想されるので事前に手当をしておくべきである。

第7 適合性原則(法77条2号、規則25条の2関係)
1 改正商品取引所法に伴い策定されたガイドラインのように具体的内容を盛り込むべきである。
 特に、新規委託者保護措置を講じていない状況、65歳以上の高齢者を勧誘している状況、年収1000万円未満の者を勧誘している状況、退職金、年金生活者を勧誘している状況などを追加すべきである。
2 適合性原則は、極めて重要であり、省令では、具体的な状況を規定すべきであるが、規定の仕方などは、商品取引所法のガイドラインのように具体的に規定すべきである。なお、同ガイドラインの具体的内容には、若干問題があるので、上記のような内容にすべきである。
第8 事業報告書等(法79条、規則27条、28条関係)
  法79条1項、2項の事業報告書、業務財産報告書には、委託者 の損得に関する事項を記載すべきである。

第9 外務員の登録(法95条、規則30条の2関係)
    法95条の外務員の登録原簿には、外務員の住所も登録事項とすべき   である。

終わりに
 今回の金融先物取引法改正によって、これまでほとんど無縁であった一般委託者が金融先物取引の世界に入っていく(正確には引きずり込まれるというべきである)道が開かれることになるが、そのさいに重要なことは、不招請勧誘禁止を中心とした勧誘規制、適合性原則、説明義務、公正な取引ルールの確立である。
 これらを実現するために、省令できめ細かな規定を設けることと、その他に、金融庁でガイドラインを策定し、法令の具体的な解釈指針を示し遵守させ、違反に対しては厳しい態度で臨むことが必要である。
                                以上。