2004年3月15日
経済産業省商務情報政策局商務課  御 中

商品取引所法施行規則改正の省令案(外国為替証拠金取引を特定業務とする)に関する意見書

                   先物取引被害全国研究会
代表幹事  津 谷  裕 貴
同事務局長 山 崎  省 吾

第1 結  論
1 商品取引所法施行規則改正の省令案(外国為替証拠金取引)には反 対である。
2 外国為替証拠金取引については、当研究会平成15年12月24日 付「外国為替証拠金取引被害に対する意見書」記載の通り、そもそも 外国為替証拠金取引を禁止すべきであり、仮にそうでない場合、これ を厳しく規制する法律を制定すべきである。
第2 理  由
1 外国為替証拠金取引の規制のあり方について
(1) 外国為替証拠金取引をどう認識するのか、これに尽きる。
    当研究会の外国為替証拠金取引に関する基本的意見は、平成1  5年12月24日付意見書記載の通りであって、現在もこの意見は  正当であると認識している。
   今回の省令改正案を見ると、当研究会の意見を理解されていない  と危惧するので、あえて繰り返し主張する次第である。
(2) 以下、平成15年12月24日付意見書を引用する。

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                       平成15年12月24日
 外国為替証拠金取引被害に対する意見書
                        先物取引被害全国研究会
第1 意見の趣旨
1 一般消費者に対する外国為替証拠金取引(外国為替保証金取引)は、全面禁止 すべきである。
2 仮に、一般消費者に対する外国為替証拠金取引を全面的に禁止しない場合でも、 参入業者を規制する立法を行い、監督官庁を定めて規制監督を行うように求める。
   特に、一般消費者に対する不招請の広告・勧誘は禁止すべきであ  る。
第2 意見の理由
1 はじめに
  当研究会は、長年、先物取引被害救済に取り組んできた全国の弁護 士有志による研究会である。
 ここ数年、先物取引業者らが「外国為替証拠金取引」なる商法を開 始し、全国各地に多数の被害を生じさせているため、一般消費者を保 護し被害防止を図るため、必要な規制されるよう求めるものである。
2 外国為替証拠金取引の仕組み
(1)証拠金による差金決済と危険性
 外国為替証拠金取引とは、少額の証拠金(保証金)を業者に預託することにより証拠金(保証金)の数倍乃至数十倍の外貨の売買ができて為替の差益をねらうという取引である。
 この取引は1998年の「外国為替及び外国貿易法」(いわゆる外為法)の改正により、それまで一定の銀行に限られていた外国為替取引が自由化されたことがきっかけで始められたものである。
 注意しなければならないことは、「外国為替取引」と「外国為替証拠金取引」は異なるということである。「外国為替取引」は現実の通貨交換を伴うものであるが、「外国為替証拠金取引」は現実の通貨交換を予定しておらず、証拠金の数倍乃至数十倍の外貨の売買を行ったと仮定した場合の「想定元本」の差益・差損のみを狙うものである。
 外国為替証拠金取引の基本的仕組みは先物取引や株の信用取引と同じであり、一部の証拠金により、多額の取引を行うことから、相場の変動によりハイリスク・ハイリターンの取引であることも同じである。
(2)スワップ金利
 外国為替証拠金取引は、為替差益・差損以外に「スワップ金利」と呼ばれる金員のやり取りが行われる。
 一般的にはスワップ金利とは交換された通貨の金利差を指す。例え外国為替証拠金取引を円・ドルを対象に行った場合、円でドルを買った場合、ドルの方の金利が高いため、顧客は円とドルの金利差を受け取ることができるとされている。逆に顧客がドルを売った場合には売るためのドルを調達する金利を支払わねばならないことになる。
 本来は「ドル買い」も「ドル売り」もドルと円の金利差は同じであるから顧客が金利を受け取る場合も支払う場合も同じになるはずであるが、実際には顧客が支払う場合には調達するための手数料がかかるためドル買いで顧客が受け取るよりも、ドル売りで顧客が支払う金利の方が高くなるとされている。
 業者によっては、信用取引になぞらえて、顧客がドルを買う場合には顧客に円を貸し付け、ドルを買っているために円とドルの金利差を受け取ることができるが、逆にドルを売る場合にはドルを借りて円を買っているから金利差を支払わなければならず、ドルの方が金利が高いために金利差を支払わなければならないなどと説明している。
 いずれにしろ、外国為替証拠金取引は仮定の上での売買の差金決済を予定しているから、スワップ金利は現実の金利の清算というより、実体の伴わない単なる約束に基づくものであるということができる。
(3)インターバンク市場との関係
 そもそも外国為替取引は全て相対取引である。銀行間における外国為替取引の集合体をインターバンク市場と呼んでいる。インターバンク市場における為替取引の最低単位は100万ドルである。
 外国為替証拠金取引は外国為替取引とは異なるものの、やはり業者と顧客との相対取引である。外国為替証拠金取引は、差金決済を予定しており、相対取引の一方が差金を受け取り(差益)、他方が差金を支払う(差損)ことになる。したがって、業者は顧客との間で為替リスクを負うことになるが、この為替リスクをヘッジする必要がある。しかし、インターバンク市場の取引は最低100万ドルであり、銀行でもない業者が直ちにインターバンク市場に取引を繋いでリスクヘッジすることは不可能である。したがって、外国為替証拠金取引は業者は常に破綻の危険性を孕んでいると当時に顧客と利害相反関係に立つことになるのである。
(4)手数料
 外国為替証拠金取引は業者と顧客との相対取引であるにもかかわらず取引を行う際に顧客が業者に手数料を支払うと取り決めていることが多い。外国為替取引においては、売りと買いの価格が手数料分を含むため異なっている。例えば1ドルが110円であれば、顧客がドルを買うためには手数料分1円を上乗せして111円を支払う業者(銀行)に支払う必要があるが、逆に顧客が業者(銀行)にドルを売る場合には手数料分が1円差し引かれれて109円で売ることになる。売りと買いの価格の幅をスプレッドと呼んでいる。
外国為替証拠金取引においても売りと買いの価格は異なる。さらに、取引の都度、手数料を支払うことになるから、手数料が2重取りされていると言っても過言ではない。 
(5)預託金の保管
(3)で述べたように外国為替証拠金取引は相対取引でインターバンク市場に繋ぐことは困難でそのため常に破綻の危険性を孕んでいると言えるが、顧客が業者に預託する証拠金(保証金)の保管についてもどのようにするかは業者の裁量となっている。業者によっては自己の資産と分離して保管しているなどと称しているところもあるが、いくら分離しておいても業者が破綻した場合には債権者の財産保全の対象からはずれるわけではなく、結局は一般財産と同じ扱いとなる。
3 外国為替証拠金取引の現状とトラブル
(1)現状
 外国為替証拠金取引は、当初、先物取引会社を中心に外国為替証拠金取引を扱う業者が増えていったが、その後、証券会社や先物会社、証券会社いずれでもない独立系などと呼ばれる業者の参入が増え2003年12月12日現在で少なくとも合計125社(商品先物取引業者45社、証券会社18社、独立系など62社)に上る。
 預り証拠金残高も民間の調査では、平成15年3月末時点で1200億円近くに達したと報じられており、現在ではさらに増加していると見られる。
(2)トラブル
 他方で苦情・トラブルも多発している。取引内容を正しく伝えないまま、「儲かります」「外貨預金を超えるものです」「外貨の方が安全です」などの甘言を弄し、顧客を勧誘して、多額の損害を生じさせている苦情、顧客が計算上利益を出すと証拠金を返還しないまま連絡が途絶えるトラブルなどが、ここ2年ほどの間に急増している。
@ 消費生活センター
 全国の消費生活センターに寄せられた外国為替証拠金取引に関する被害・苦情を集計した国民生活センターの全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO−NET)によれば、為替相場に関する相談(外国為替証拠金取引に関する苦情がほとんどを占める)の件数は、2001年度が145件であったのに対し、2002年度は724件と約5倍に急増している。2003年も、4月〜9月までの上期だけで381件に達したという。
 苦情を寄せている年代の4分の1強が60代であり、2002年度に関しては60代から70代が4割強を占める。さらに半数以上が女性であり、外国為替証拠金取引のような仕組みが複雑で非常に高度な危険性を有する取引被害に、社会的弱者である高齢者・女性がさらされている事実が明らかとなっている。
 被害の訴えの内容は、勧誘方法の問題(執拗・強引な勧誘)、勧誘対象の問題(判断能力の衰えた高齢者に対する勧誘)、勧誘内容の問題(リスクの説明なし、利益が出るとの断定的判断の提供、虚偽説明)、指示に応じない問題(手仕舞い指示を出しても応じてくれない、やめさせてくれない、利益が出たので売りたいと言っても売らせてくれない、勝手に売買してしまう)、証拠金等の返還の問題(業者がいなくなって預けた証拠金が返還されない、利益がでているのに元本しか戻ってこない)などである。
A 弁護士会の110番
当研究会が、全国各地の弁護士会に呼びかけ行った先物・外国為替証拠金取引110番の結果によると、全国で62県の苦情が寄せられた。
 110番でよせられた苦情の内容、外国為替証拠金苦情業者は、別紙の通りである。
B 一業者による大型の被害事件も報道されており、平成15年10月には、福岡県警察本部が、今春支払いを停止した外国為替証拠金取引の仲介業者「ファーストクラブ」について、顧客から多額の資金を騙し取ったとの容疑で家宅捜索をした。報道によれば、被害者は、福岡県都市圏を中心に百数十名、被害額は3億円にのぼるとされている。子供のいない共働きの50代夫婦が長年かかって蓄えた預金をそっくり失ったケースも報道されている。
 さらに平成15年11月には、沖縄の外国為替証拠金取引会社「フォレックスジャパン」が5000人の顧客から合計200億円を預かった状態で返還を停止したと報道された。資金は外国に送られたとのフォレックスジャパン側の弁解が伝えられているが、詳細は不明であり、どれだけ被害回復が図られるのかも判らない。
 損害賠償請求訴訟も東京、大阪、静岡、札幌などの裁判所で相次いでいる。札幌では現在約60名の被害者による集団提訴が係属中である。
 この他にも、東京や大阪では、外国為替証拠金取引を行った取引業者が預かった証拠金の返還を停止してしまったため、かかわった業者に対し、その返還ないし損害賠償を求めて20名の集団訴訟など、何件もの訴訟が提起されている。
4 外国為替証拠金取引の本質
 外国為替証拠金取引は前述のように実際には授受されない想定元本について差金決済し差金の得喪を目的としたものであるが、これは刑法上の賭博行為に該当するという問題点を抱えている。
 すなわち、賭博とは「偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為」とされているが外国為替証拠金取引は、業者と顧客との間で為替相場の将来の一定時点における数値(一ドル112円など)により契約上の金銭の支払義務の有無ないしその額が決定されるので、偶然の事実の発生により「財産上の利益の得喪を争う」ものに該当すると解さざるを得ない。
 実際、外国為替証拠金取引業者に損害賠償を命じた札幌地方裁判所平成15年5月16日判決は「外国為替証拠金取引取扱業者が顧客の依頼に基づいて外国為替取引を実行することは外国為替証拠金取引の要素であって、これがない取引は外国為替証拠金取引とは異質のもの」として「外国為替取引の実行がない場合には、外国為替証拠金取引と称する取引が、実際には、外国為替相場における通貨の交換価格を指標とする賭博行為に過ぎない」としている。
 外国為替証拠金取引の要素として実際の外国為替取引の実行を伴うこととして、これを伴わないものは賭博行為であるしているのである。現実には外国為替証拠金取引業者は顧客の依頼をそのまま外国為替取引するということは不可能であるから、現在の外国為替証拠金取引の殆どが賭博行為であることになる。
 同様に外国為替証拠金取引業者に損害賠償を命じた札幌地方裁判所平成15年6月27日判決もやはり「為替相場の変動という偶然の事情を指標として、金銭の授受(差金の決済)を行うことのみを内容とする本件取引は、賭博行為と言わざるを得ない」としている。
 すなわち、実際の外国為替取引の裏付けのない取引は、単なる為替相場を指標とする差金取引であり、賭博行為であるとする判決が相次いでいるのである。
 そもそも、外国為替証拠金取引に限らず、将来の相場・天候などの変動のあるものを利用し、当事者間で約定された数値と将来の一定の時期における現実の数値の差に基づいて算出される差金決済を目的とするデリバティブ取引(金融派生商品)は賭博的要素を内在している。
 これらデリバティブ取引の違法性を阻却する要件としてはまず当該デリバティブ取引を適法化する立法が必要になる。銀行業法、保険業法、証券取引法などには各種デリバィブ取引を適法化する立法がなされている。
 さらに、当該デリバティブ商品にリスクヘッジなどの経済的合理性がなければ、単なる「ギャンブル資本主義」「カジノ資本主義」などの批判を免れない。経済的合理性のないデリバティブ取引は単なるマネーゲームにしかすぎないのである。
 外国為替証拠金取引について見た場合、為替取引に何ら縁のない国民が単に差益だけを目的に金銭(証拠金)を預託し証拠金取り引きする必要性がないといえる。
 外為法が為替取引の自由化を認めたのは、企業間の取引を活発化したり、ホテルで簡単に外貨の両替ができるなどの為替取引の利便性を図ることが目的である。決して、為替取引を利用した一般大衆へのギャンブルを広めることが目的ではないはずである。
 逆に外国為替証拠金取引を認めることにより多大な弊害が出ていることは現状の問題点を考えただけで明らかである。
5 外国為替証拠金取引の問題点
 前述のように、外国為替証拠金取引の本質は賭博であるという問題 点を抱えているが、現在の参入業者には、以下のような多数の疑問点が存する。
(1)そもそもインターバンク市場へつなぐことが可能なのか。
前述札幌地裁判決は、外国為替証拠金取引がインターバンク市場に繋がれていることが不可欠であるとし、また、参入業者もしばしば「顧客に有利なインターバンクレートによる取り引きが可能」などと勧誘している。
 インターバンクレートが顧客に有利というのは、為替相場では、同じ時刻でもドル買いとドル売りのレートは異なり、顧客がドルを買う場合(業者が売り)には1ドル=112円であるが、逆に顧客がドルを売る場合(業者が買い)には1ドル=111円となる。このドル買いとドル売りの場合の値段の幅を「スプレット幅」というが、顧客にとってはこのスプレット幅が小さい方が為替取引をする上で有利である。
 通常、銀行で為替取引(円とドルの交換)する場合のレート(いわゆる対顧客相場)はスプレット幅が2円であるが、インターバンクレートではこのスプレット幅がより小さいとされている。
 ところで、インターバンク市場は最低の売買単位が100万ドルとされており、為替リスク、信用リスクがいずれも高いために世界でも大手の金融機関のみが参加しているもので、インターバンクレートもスプレット幅が小さい(商品の卸売り市場では原価が安いのと同様)のであるが、現在参入している業者が全てインターバンク市場へ取り次ぐことを実際に行っているのかは非常に疑問である。むしろ、現実にはほとんどの業者がインターバンク市場にはつながっていないと考えられる。その場合には外国為替証拠金取引は私設の賭博場となっているといえる。
(2)スワップ金利はなぜ生じるのか
 外国為替証拠金取引においては、金利の高い通貨を売買する場合に、売買成立から、決済日まで買いの場合には金利を取得でき、売りの場合には金利を払うことになるとされている。スワップ金利も外国為替証拠金取引が、外国為替取引の実行を伴うものとすれば、スワップ金利が生じることも理解できるが、もし、机上のものに過ぎないのであれば、そもそもなぜこのような金利は根拠のないものになる。
 いわば、架空の金銭について金利をやり取りしていることになるのである。(3)顧客の資産の保全はどのように図られるのか
 外国為替証拠金取扱業者は、積極的に顧客を勧誘して、多額の金銭を証拠金名下に集めるが、今年9月の福岡の業者(ファーストクラブ)のように、破綻をしたり、あるいは証拠金を持ち逃げされた場合には顧客の資産の保全措置が全くない。
 平成15年11月の沖縄の外国為替証拠金取引会社「フォレックスジャパン」の返還停止についても顧客の保護措置は全くない。
 現在は、法的規制が全くないことから、零細業者も多数参入している。平成15年12月13日現在で先物取引業者でも証券会社でもないいわゆる独立系などと呼ばれる業者が少なくとも62社もあることは前述したが、外国為替証拠金取引はもっともらしい電話・FAXとがあれば業として始めることができるのであり、このような業者が破綻したような場合に顧客は、預託した保証金など何らの保護もされないことになる。    
(4)このように、外国為替証拠金取引は、構造的に数多くの問題を孕むにもかかわらず、一般消費者にその危険性を十分に説明することなく、その資金運用の効率性や外貨預金との比較などによる利便性などを徒に強調し、誤解を生じさせて多数の苦情・トラブルをまき散らしているものである。
 しかし、十分にその問題性を明らかにしていくと、まさに一般消費者に対して「売ってはならない」商品の典型であることがわかる。
6 外国為替証拠金取引に対してとるべき施策
(1)当研究会は、このような外国為替証拠金取引は一般消費者には「売ってはならない」商品であるとの立場から、一般消費者に向けたものとしては全面的に禁止し、一般消費者に向けて業として行うものに対しては罰則を設ける立法措置を求めるものである。
 あらゆる金融商品にはその必要性を裏付けるものがなければならない。しかし、単に為替相場を指標としたマネーゲームでしかない外国為替証拠金取引にはその必要性は全くない。
 現状を見ても、業者が一般大衆から金銭を巻き上げる小道具になっているのである。
(2)仮に、何らかの何らかの形で存続を認めるとしても、
@ インターバンク市場につながれていることを明確にし、外国為 替証拠期取引取扱業者とインターバンク市場、顧客との関係を書 面により明らかにすること。
A 顧客の資産保全措置を明確にすること。
B 監督官庁を定め、勧誘に際しての適合性原則を明らかにし、ク ーリングオフを認めるなど顧客に対する保護規制を十分に図るこ と。
C 消費者に対しての広告・電話勧誘・訪問勧誘などいわゆる不招 請広告・勧誘を禁止し、積極的に取引を希望する者に取引の客観 性・明確性を確保するためインターネット上のみの取引に限定す べきである。
D 無登録業者や顧客の資産保全措置の要件を満たさない者に対し ては刑事罰を含む罰則を定めること。
 などの法規制を早急に行うべきである。
(3)平成15年12月10日、一部外国為替証拠金取引業者が外国為替証拠金取引協会(FXMTA)という自主規制団体を設立した。
   報道によれば、FXMTAには商品先物取引業者19社、証券会社1社の20社が参加するようである。
   しかし、FXMTAの定める「事務ガイドライン」は顧客に対する資産の保  管管理・業者破綻時のリスクの説明・開示を求めるのみであって、為替証拠金  取引の仕組み(相対取引・証拠金取引であることなど)、スワップ金利、両建  などについて全く触れておらず、リスクヘッジについても何ら具体的は指針を  示していない。
   広告規制についても「顧客に重大な誤解を与えてはならない」などと「多少  の誤解を与えること」は容認するかの如き規制にとどまっている。
   FXMTAは業者の自主規制などでは真に顧客保護をはかることが不可能で  あることを端的に示している。  
7 おわりに
  当研究会としては、現在生じている被害を最小限に抑止すべく、外国為替証拠 金取引の勧誘を、一刻も早く禁止・規制し、違反者に対しては罰則を設けるなど の措置を強く望むべく本意見書を提出する。

(3) 以上の通り、外国為替証拠金取引は、国民経済的には無意味であり、本来これは賭博であって、禁止すべきものである。外国為替証拠金取引自体の正当性が法的に担保されていない以上、これを商品取引員に、法133条3項の特定業務として届け出をさせるということは、ここでいう特定業務が違法行為を含むという解釈であればともかく、そうでない限り、到底容認できるものではない。
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2 今回の省令改正案について
  以上の通り、外国為替証拠金取引は、今回の省令改正案は、次のような問題があり、これらは、当研究会の上記見解からは容認できるものではない。
 第1に、外国為替証拠金取引自体本来賭博であって、禁止すべきものであるが、この問題を法律で吟味、検討しないで、そのまま特定業務として、あたかも正当な取引であるかのように、省令で認知しようとすること自体、問題がある。
 すなわち、外国為替証拠金取引を認めるかどうかは、法律事項であって、省令事項ではないと言わなければならない。
 第2に、外国為替証拠金取引は、現在、商品取引員、証券会社、その他のいわゆる独立系が行っているが、商品先物取引のようなヘッジ機能もなければ、価格形成機能もなく経済的には全く無意味であり、賭博の場を提供するだけとしか言いようのない取引である。これを商品取引所法施行規則の特定業務とすることは、商品取引員が行う外国為替証拠金取引だけがあたかも特別に正当な業務であるかのような誤解を与え、これを奇貨として、商品取引員は、商品取引員が行う外国為替証拠金取引は政府で認められた取引であると積極的に宣伝、勧誘するなどし、最近被害増大傾向が著しい外国為替証拠金取引被害をより一層増大させ、正に火に油を注ぐ結果になること。
 第3に、外国為替証拠金取引は、先物取引と構造は類似するものの、それ自体とは異なるものであって、主務省は、商品取引員に、許可を与えるに際し、商品取引の受託を許可しても、外国為替証拠金取引の許可は与えていなかったはずである。
 百歩譲り、外国為替証拠金取引に何らかの意味を見いだすことができるとすれば、先物取引以上に取引の内容の難解性、取引の危険性から、すくなくとも商品取引員同様、外国為替証拠金取引を行うこと自体新たな基準に基づく許可が必要と言うべきものである。それなくして、省令で特定業務として「届出」だけで足りるというのは、不当と言わなければならない。
 第4に、本年12月末日から委託手数料が完全自由化され、又、現在商品取引所法改正が検討されこれまで以上に商品取引員は厳しい状況におかれるが、これらによって商品取引員の淘汰が加速されることが予想されている。本来淘汰されるべき商品取引員は、これまでの先物取引の受託から、金融商品販売法以外これといった規制のない外国為替証拠金取引へシフトすることが予想される。これは、あたかも商品取引所法によって私設先物が規制され、その後、それらのものが海外先物にシフトし、海外先物自体は違法取引であるのに、政令指定による後追い行政が採用された結果、モグラたたきが始まり、いまもって海外先物被害が無くなっていないといった状況を思い出させるものであるが、失敗の二の舞を踏むことになる。
 第5に、こうした現状の下、省令改正を行った場合の弊害が具体的に予想されているのに、あえて省令改正を断行すれば、これによって被害が拡大した場合の行政の責任は免れないと言わなければならない。

3 結論
以上の通り、省令改正には反対であり、早急に、当研究会や日本弁護士連合会の主張の通り、外国為替証拠金取引を禁止又は法規制を行うべきである。